サイエンス

チョウの羽はセンサーや放熱などの機能を持つ「生きた翼」であることが判明


チョウの羽は空を飛ぶために必要な器官ですが、これまでは「特に体液が通っているわけでもない、ただの膜」だと思われてきました。しかし、チョウの羽を徹底的に調べた研究により、チョウの羽は放熱板やセンサー、体液を循環させるポンプなどの役割を持った、多機能な器官だということが判明しました。

Physical and behavioral adaptations to prevent overheating of the living wings of butterflies | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-14408-8

Beating the Heat in the Living Wings of Butterflies | Columbia Engineering
https://engineering.columbia.edu/press-releases/nanfang-yu-butterfly-wing-scales

コロンビア大学で応用物理学を研究しているCheng-Chia Tsai氏らの研究グループが、チョウの羽の秘密を発見したのは、生きたヒメアカタテハや2種のシジミチョウの仲間の羽から慎重に鱗粉(りんぷん)を除去し、羽のニューロンを染色した際のことです。研究グループが生きたチョウの羽の内部構造を調べたところ、チョウの羽に「生きた細胞で形成された感覚器」が存在することが確認されました。

以下はオスのヒメアカタテハの羽で見つかった感覚器です。2種類の感覚器が翅脈(しみゃく)に沿って配置されているのが分かります。


論文の共著者で、コロンビア大学で工学を研究しているNanfang Yu氏は「チョウの羽はいわば、光のベクトルを検出するパネルのようなものです。チョウは視覚を使わずとも、羽を使って太陽光の強度と方向を正確に検知することが可能です」と話しました。

以下のムービーを再生すると、チョウが羽を使って光の向きを感知している様子が分かります。

Beat the Heat in the Living Wings of Butterflies - YouTube


複眼を覆った状態にしたチョウに、一方から光を当てて……


チョウが乗っているシャーレをぐるりと回転させて、チョウの体の向きを変えます。


すると、すぐさま方向転換して、もとの向きに戻りました。


また、感覚器だけでなく、フェロモンの生成などに関連しているとされる「嗅覚パッド(scent pad)」と呼ばれる器官や、体液の循環を行っている「羽の心臓(wing heart)」という器官も見つかりました。以下の写真はシジミチョウの仲間であるParrhasius m-albumSatyrium caryaevorusの「嗅覚パッド」を拡大したものです。


オスのチョウの羽にある嗅覚パッドには血球を含んだ体液が流れています。


嗅覚パッドの付近には、まるでポンプのように伸縮する「羽の心臓(wing heart)」が存在し、1分間に数十回の拍動により体液の循環を助けています。


共著者のナオミ・ピアース氏は「今回の発見は、チョウの羽は不活性な膜ではなく、ダイナミックで生きた構造を持つ器官であると再定義する必要があることを示しています」とコメントしました。

また、生きた細胞は適切な温度下でなければ死滅してしまうことから、研究グループは「チョウの羽には温度を調節する機能があるはず」と考えました。そこで、赤外線カメラを使ってチョウの羽の温度分布を調べたところ、チョウの羽の生体組織から放熱されていることが確認されました。


チョウの羽には4種類の構造の鱗粉がありますが、鱗粉が持つ微細な構造も素早い放熱に寄与しているとのこと。


こうした働きにより効率的に熱が放出されるおかげで、チョウの羽の「生きた部分」は「ただの膜の部分」に比べて、常に温度が低い状態が保たれているとのこと。


研究グループはさらに、チョウが羽を使って光の方向を感知している理由を確かめるべく、チョウの羽にレーザーを当てて、その様子を赤外線カメラで観察してみました。画面の上部からレーザーが照射されると、チョウの羽はどんどん加熱されていきます。


すると、チョウはくるりと方向転換して、羽がオーバーヒートしないように向きを調節しました。


また、羽が開いた状態で羽の一部にレーザーを当てると……


まるで熱がるようにして羽を閉じました。


熱くなった方の羽だけを動かしたり……


わずかに角度をずらして過熱を防いだりしている様子から、感覚器がいかに正確かが分かります。羽の温度が約40度を超えると、調査対象となったチョウ全てが羽のオーバーヒートを防ぐ行動を見せたとのこと。


Tsai氏は「チョウの羽の鱗粉に見られるナノ構造は、熱を放射する冷却材の設計にインスピレーションをもたらしてくれます」とコメント。

Yu氏も「チョウの羽にある無数のセンサーは、リアルタイムのフィードバックにより複雑な飛行パターンを可能にしています。飛行力学に基づくのみならず、『統合された感覚機械システム』として設計されたチョウの羽を研究することで、複雑な空力的条件でも高い性能を発揮する飛行機の翼を開発できるかもしれません」と述べて、小さなチョウの羽が持つ優れた機能を称賛しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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