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陰謀論者に「中国からアメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ人物」に仕立て上げられてしまった女性

by Heather Fulbright / CNN

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が世界で最も多いアメリカでは、2020年4月27日の時点で100万人近い人々が新型コロナウイルスに感染し、5万人以上が亡くなっています。そんな中、アメリカに住むMaatje Benassiさんという女性は、陰謀論者によって「新型コロナウイルスを中国からアメリカに持ち込んだ最初の人物」に仕立て上げられてしまったことで、人生が暗転してしまったと報じられています。

Exclusive: She's been falsely accused of starting the pandemic. Her life has been turned upside down - CNN
https://edition.cnn.com/2020/04/27/tech/coronavirus-conspiracy-theory/


新型コロナウイルスが世界中に拡散して以降、インターネット上ではさまざまな陰謀論が展開されています。「新型コロナウイルスは人為的に作られた兵器だ」という説に加え、「COVID-19が流行した原因は第5世代移動通信システム(5G)にある」という陰謀論まで広がっており、イギリスでは5G電波塔の放火被害が多発しているとのこと。

5G電波塔の放火被害が多発、「5Gが新型コロナウイルスを拡散している」というデマがなぜ広がったのか? - GIGAZINE


アメリカ陸軍の予備役であり2児の母でもあるMaatjeさんは、バージニア州フェアファックス郡のフォート・ベルボアで民間の警備員として働いており、元空軍将校である夫のMattさんもアメリカ国防総省で民間部門の従業員として働いています。Benassi夫妻にはいずれもCOVID-19の症状は出ておらず、新型コロナウイルスの陽性反応も確認されていませんが、陰謀論者は「Maatjeさんが中国から新型コロナウイルスをアメリカに持ち込んだ」と主張しています。

最初からMaatjeさんが新型コロナウイルスに関連する陰謀論のターゲットになっていたわけではなく、陰謀論はウイルスが拡散と共に変異を繰り返すのと同様に、さまざまな変化を見せながらインターネット上で広まっていきました。初期の陰謀論としては「新型コロナウイルスはアメリカの生物兵器だ」という根拠のない主張があり、2020年3月には中国高官が「新型コロナウイルスが米軍によって持ち込まれた可能性がある」とTwitter上で発言しました

この発言に対しては中国の崔天凱駐米大使も「ばかげている」「そのような臆測は誰の役にも立たず、極めて有害だ」と反論しており、アメリカのマーク・エスパー国防長官も「中国政府の代表者がこのような発言をするのは全くばかげており、無責任だ」と語っています

そんな中、陰謀論者が目をつけたのが、2019年10月に中国・武漢市で開催されたミリタリーワールドゲームズです。ミリタリーワールドゲームズは軍人スポーツ選手のための競技大会であり、1995年から20年以上にわたって4年おきに開催されています。Maatjeさんはミリタリーワールドゲームズの自転車競技に参加するため、2019年10月に武漢市を訪れていたとのこと。


武漢市で開催されたミリタリーワールドゲームズに参加していたのはMaatjeさんだけではなく、数百人ものアメリカ軍人が参加していました。ところが、競技中に転倒して肋骨を折るなどのケガを負って目立ったためなのか、なぜかMaatjeさんが陰謀論のターゲットになってしまったとのこと。「Maatjeさんが新型コロナウイルスをアメリカに持ち込んだ」という主張はYouTubeやソーシャルメディア上、さらに中国国内のソーシャルメディアでも拡散されています。

陰謀論のターゲットになってしまったことから、Maatjeさんの人生は一気に暗転してしまいました。Benassi夫妻の住所がオンライン上にさらされ、ソーシャルメディア経由でも多くのメッセージが陰謀論信者から届いたそうです。「毎日、悪い夢から目覚めたら悪夢が始まるようなものです」と、MaatjeさんはCNNのインタビューで語りました。Mattさんは弁護士や地元の警察に相談したものの、法執行機関にできることはほとんどないと言われてしまったとのこと。

多くの人々から見れば明らかに虚偽とわかる陰謀論でも、ソーシャルメディアプラットフォームで拡散されることにより、実生活にまで大きな影響を与えるとCNNは指摘。Benassi夫妻は嫌がらせや誤報に対する無力感を感じており、Maatjeさんは「ネットいじめはもはや私の手に負えるものではないため、皆さんには嫌がらせを止めて欲しいです」と、涙をこらえながらCNNに語っています。


Maatjeさんがアメリカ国内に新型コロナウイルスを広めたという陰謀論で中心的役割を果たしたのが、59歳の陰謀論者であるジョージ・ウェッブ氏です。ウェッブ氏は定期的にYouTubeで配信を行っており、チャンネルの合計視聴回数は2700万回を越え、100万人以上のフォロワーを抱えています。最近までウェッブ氏のチャンネルには広告が付いていたそうですが、記事作成時点では広告が掲載されていないとのこと。

ウェッブ氏はMaatjeさんだけでなく、夫妻と同じ「Benassi」の姓を持つ著名なDJのBenny Benassi氏についても、「初期の新型コロナウイルス感染者でありアメリカにウイルスを持ち込んだ1人だ」と主張しています。ところがBenny Benassi氏はCNNのインタビューに対し、これまで新型コロナウイルスに感染したことがないばかりかBenassi夫妻とは会ったことすらなく、そもそもBenassiという姓はイタリアでは一般的で珍しくないと指摘しています。

CNNのインタビューに対してウェッブ氏は、Benassi夫妻に対する疑惑の情報源は明かすことができないとして、Maatjeさんが新型コロナウイルスをアメリカに持ち込んだ根拠を示しませんでした。


YouTubeの広報担当者は、YouTubeが新型コロナウイルスに関する正確な情報共有を促進することに尽力していると述べ、Benassi夫妻への脅迫的なコメントやウェッブ氏が投稿したいくつかのムービーを削除したとのこと。しかし、ムービーが削除されても陰謀論の内容はインターネット上で拡散され、時にはムービーを保存していた視聴者が勝手にムービーを再アップロードすることもあります。ウェッブ氏のムービーは中国のソーシャルメディアであるWeChat微博(ウェイボー)などでも、中国語字幕付きで拡散されているそうです。

陰謀論の内容は全くの虚偽であっても、Benassi夫妻は現実的な脅威と恐れを感じています。Mattさんは一連の問題が、新たな「ピザゲート」になるのではないかと述べ、いつか現実の事件が発生する可能性を恐れています。ピザゲート事件では、民主党のヒラリー・クリントン候補陣営の関係者が人身売買や児童性的虐待に関与しているという陰謀論に端を発し、ワシントンD.C.にあるピザ店が人身売買の拠点となっているとの虚偽情報が拡散。最終的に、疑惑を信じた男がライフルを持ってピザ店に押し入り、発砲する事件にまで発展しました。

Mattさんは民事弁護士への依頼料が高すぎるため、一般人では嫌がらせに対する民事訴訟を起こす費用が用意できないとコメント。ボストン大学のDanielle Citron法学教授は、Benassi夫妻のケースは残念ながら珍しいものではないと指摘し、インターネット上での嫌がらせに法執行機関は調査しないケースが多いと認めています。今回のようなケースに対処するため、Citron氏は法律を変更する必要があると述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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