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景気の後退は死者数を増加させるのではなくむしろ減少させるとの指摘


多くの国々が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として社会的距離を取る戦略を採用しており、ヨーロッパなどでは強制的な都市封鎖も実施されています。その一方で、「社会的距離を取ることで経済活動が停滞し、景気後退が引き起こされてしまい、結果的にCOVID-19より多くの人が亡くなる」と述べ、COVID-19による死者数が増加したとしても社会活動を元通りにするべきだと主張も存在します。この主張に対して海外メディアのArs Technicaは、「景気後退は死者数を増加させるのではなく、むしろ減少させる可能性がある」と指摘しています。

How does economic collapse alter the mortality rate? | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/04/recessions-dont-lead-to-an-overall-increase-in-deaths/

都市封鎖によって経済にもたらされる損害と、結果として救われる人命の釣り合いが取れているのかどうかという議論は、世界中の国々で行われています。アメリカの研究チームが行った分析では、「社会的距離を取ったことによる経済的ダメージと救われた命の費用対効果を計算すると、およそ560兆円の利益になる」との結果が示されました。

社会的距離を取る施策の経済的ダメージと救われた命の費用対効果を計算すると約560兆円の利益になると研究者が主張 - GIGAZINE


また、1918年に発生した「スペインかぜ」のパンデミックの事例から、「社会や市民の活動を制限する積極的な取り組みをした方が、規制解除後の経済成長が高くなる」ということが示されています。経済を優先して社会的距離を取る戦略を取らなかった場合、むしろ経済に深刻なダメージが及ぶ可能性もあるとのこと。

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その一方で、人を死に追いやるのは感染症だけではなく、景気の後退も人命の喪失を引き起こすとの指摘もあります。イギリスのタイムズ紙は、「長期間の都市封鎖に起因する経済危機はCOVID-19より多くの人命を奪う可能性がある」と主張するレポートを紹介しました。

Nanotechnology Perceptionsという未査読の学術誌に掲載された、エンジニアのPhilip Thomas氏が著した(PDFファイル)論文は、「国内総生産(GDP)と平均余命が相関している」という発見に基づいています。Thomas氏はこの相関から「GDPが平均余命を左右する」と仮定した上で、「GDPの減少が平均余命の減少を引き起こす」と考え、都市封鎖による景気後退から失われた寿命を計算しているとのこと。

Ars TechnicaはThomas氏の論文について、「この仮定はそれ自体に欠点がありますが、実際のデータによっても裏付けられていません」と指摘。経済学者らは以前から経済危機が人命に及ぼす影響を理解しようと試みてきましたが、いくつかの予想外の結果が導き出されてきたそうです。「当然のことながら社会と経済は非常に複雑であり、経済危機の結果は複雑かつ厄介で、状況に依存します。しかし平均して、景気の低迷は死者数の減少につながるように見えます」とArs Technicaは主張し、2019年に学術誌のNatureで報告されたレポートを紹介しています。


景気後退が死者数を減らすという結果は直感に反するものかもしれません。しかし、レポートは景気後退によって道路を走る車が減ることで交通事故死が減少するほか、自動車の減少などによって空気の質も向上すると指摘。大気汚染は公衆衛生の危機であり、景気後退による空気の浄化は呼吸器疾患や心血管疾患など、一部の病気による死亡者数を減少させることが予想されるとのこと。

加えて仕事がなくなることで職場における死亡事故も少なくなり、余暇が増えることで仕事に伴うストレスが減少し、運動量や家庭で料理を作る割合が増加します。賃金の減少に伴い、平均するとお酒やタバコの消費量も減少することから、景気後退は人々にとって多くの健康的な利点をもたらす可能性が示唆されています。


もちろん、景気後退の影響は明るい面だけではありません。失業や賃金減少によるストレスの増加でメンタルヘルスが悪化したり、ストレスを紛らわせるために無茶なアルコール摂取を行う人が増えたり、医療費が負担となって医療機関へのアクセスが難しくなったり、多くの悪影響も引き起こされます。また、景気後退の結果として自殺率が上昇することも指摘されています

景気後退が引き起こす結果は単純なものではなく、一部の面では人々の健康にメリットをもたらして死亡率を低下させ、別の面では人々の生活を苦しめて死亡率を増加させます。しかし、景気後退によって人生が大きく暗転する人がいることも確かですが、歴史的な分析によると景気後退は全体として死亡率の低下をもたらすそうです。


景気後退が平均して死亡率を低下させるとの見方が強い一方で、影響は国ごとに違う可能性も示唆されています。2000年代後半から2010年代初頭までの世界的な経済衰退期(グレート・リセッション)がEU諸国の死亡率にもたらした影響を分析した研究では、社会的セーフティネットの少ないブルガリアのような国では景気後退による平均的な死亡率の低下および自殺率の増加が大きく、社会的セーフティネットがしっかりしているドイツのような国では景気後退による影響が小さいことが示されました。「社会保護への支出は、不況に対する健康的な反応を滑らかにする上で役立つようです」と、研究チームは述べています。

Ars Technicaは景気後退による死亡率の変化は驚くほど複雑なものであり、因果関係を突き止めることも困難で、結論にたどり着く複数の道筋があると指摘。その一方で、「景気後退が人命の損失につながると、確信を持って主張することはできません」と述べ、パンデミックへの対策を「都市封鎖で救われる命と経済へのダメージ」や「景気後退によって失われる命とCOVID-19によって失われる命」のジレンマとして捉えるべきではないと主張しました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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