サイエンス

人間の健康に対する最大の脅威は「ウイルスではない」との主張、最も人間の寿命を縮めているものとは?


日本では2020年7月29日に、これまで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が報告されていなかった岩手県で、初の感染症例が報告されたほか、世界でも1日当たりの新規感染者の累計が27日に30万人を突破するなど、COVID-19のパンデミックはいまだに大きな脅威であり続けています。そんな中、アメリカの研究機関は7月28日に「人間にとって最も深刻な健康リスクはウイルスではなく大気汚染である」という内容のレポートを発表しました。

New Data Reveals Little Progress Globally in Reducing Air Pollution Over the Last Two Decades - AQLI
https://aqli.epic.uchicago.edu/news/new-data-reveals-little-progress-globally-in-reducing-air-pollution-over-the-last-two-decades/

New Report Identifies The 'Greatest Risk' to Human Health, And It's Not a Virus
https://www.sciencealert.com/air-pollution-greatest-risk-to-global-life-expectancy-says-study

これまでに行われた多くの研究により、大気汚染がもたらす悪影響の深刻さが指摘されており、その健康被害が及ぶ範囲は呼吸器だけでなく「暴力事件の増加」「アルツハイマー病を始めとする認知症リスク」「知能の低下」など多岐にわたります。また、4月に発表された最近の研究では、「大気汚染がCOVID-19による死亡リスクを高める」ことも確かめられました。

大気汚染が新型コロナウイルス感染症の死亡リスクを高めるという研究結果 - GIGAZINE


シカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)により発足された研究機関・大気品質寿命指数(Air Quality Life Index/AQLI)は7月28日に、2020年版の年次報告書を発表しました。

報告書の中でAQLIは、中国における大気汚染と平均寿命の関係を調べた2つの研究を取り上げて、「異なるレベルの大気汚染に長期間さらされた2つの人口グループを比較して分析することで、大気汚染以外の要因を排除し、大気汚染が寿命に及ぼす影響を浮き彫りにすることが可能です」と指摘。実際に、これらの研究から得られた知見と、人工衛星による大気汚染の観測データを照合して、大気汚染が世界中の人々に与えている影響を他の要因と比較しました。

その結果が以下のグラフです。「大気汚染」が世界の平均寿命に与える影響は1.9年で、「喫煙」の1.8年、「アルコールと薬物乱用」の11カ月、「不衛生な水」の6カ月、「交通事故」の5カ月、「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)により引き起こされる後天性免疫不全症候群(AIDS)」の4カ月、「マラリア」の3カ月、「紛争やテロ」の23日などよりも影響が大きいことが分かりました。


この結果についてAQLIは、「少なくともCOVID-19のパンデミック以前は粒子状物質による大気汚染が人間の健康にとって最大の脅威であったことが分かりました。そして、強力かつ持続的な公共政策によって大気汚染を防ぐ取り組みが行われなければ、パンデミック以後も同様でしょう」と結論付けました。

AQLIによると、大気汚染の影響が大きく現れたのは、世界人口の4分の1が大気汚染が著しいバングラデシュ、インド、ネパール、パキスタンの4カ国に集中しているためとのこと。これらの地域では、過去20年間で大気汚染の度合が44%も上昇しているため、平均寿命が5年も短くなっているそうです。


一方、AQLIの創設者でEPICの理事長でもあるマイケル・グリーンストーン氏は、「いいニュースもあります。それは、行動を起こして空気をきれいにすることに成功した国々があることです」と述べました。例えば、以前は新鮮な空気を詰め込んだ「空気缶」が飛ぶように売れたほど深刻な大気汚染に悩まされていた中国は、2013年から開始した「公害との戦い」政策により、大気汚染を40%近く削減することに成功。これにより、中国では2年ほど平均寿命が伸びると期待されているとのこと。

グリーンストーン氏は「アメリカ、ヨーロッパ、日本でも公衆衛生の改善を求める声に後押しされた強力な政策により、大気汚染の低減に成功しています。このことから、『どのような政治的背景でも大気汚染を減らす政策を執ることは可能』という教訓が得られました」と述べて、大気汚染を減らして健やかに長生きするためには、大胆な政策が求められるとの見方を示しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
大気汚染が新型コロナウイルス感染症の死亡リスクを高めるという研究結果 - GIGAZINE

大気汚染の悪化は暴力犯罪の増加と相関しているとの研究結果 - GIGAZINE

大気汚染がアルツハイマー病などの認知症につながる可能性 - GIGAZINE

大気汚染は知能を低下させるという研究発表 - GIGAZINE

屋内の空気汚染は時に屋外よりも深刻、料理や掃除が汚染の原因に - GIGAZINE

中国の大気汚染が2000億円以上の損害を太陽光発電にもたらしているという研究結果 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.