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魔女は古くから商売上手であり現代では魔術が数千億円規模の産業と化している


キリスト教社会において異端の存在である魔女はかつて厳しい魔女狩りに遭うなどして迫害されてきましたが、その一方でやり手の商売人として活躍していた側面もあります。オーストラリアのディーキン大学で博士課程に在籍するNicole Lenoir-Jourdan氏が、魔女の商売についての歴史や現代の「魔術産業」についてまとめています。

How witchcraft became a multi-billion dollar industry
https://theconversation.com/how-witchcraft-became-a-multi-billion-dollar-industry-148101


Lenoir-Jourdan氏によると、13世紀以降の魔女はスコットランド・イギリス・フィンランドの港町で成功していた、「やり手のビジネスウーマン」だったとのこと。約800年前の迷信深い船乗りたちは、航海の前に港町で魔女を探して「風の結び目」を購入していました。

風の結び目とは3つの結び目を持ったロープであり、それぞれの結び目には航海にとって重要な「風」が封じ込められていると信じられていました。結び目を1つほどくとそよ風が吹き、2つほどくと強風が、3つほどくと嵐のような風が吹き荒れるとされていたそうです。

船乗りたちは風を制御するために魔女たちから風の結び目を購入し、航海の無事を祈っていました。しかし、15世紀ごろから激しくなった魔女狩りによって魔女たちが姿を消したことにより、船乗りたちは風を調整する他の方法を探さなくてはならなくなったとLenoir-Jourdan氏は述べています。


また、13世紀には魔女が医学を実践することを禁じられましたが、民間ではそれ以降も治療者として魔女は人々から頼られていました。当時の魔女が販売していた治療薬の中には、痛みや熱を抑えるためにヤナギの樹皮を処方するものがありましたが、後にヤナギの樹皮からは消炎鎮痛作用があるサリチル酸が発見されており、いくつかの治療法は実際に効果があったとのこと。

17世紀のフランスで活動したラ・ヴォワザンは黒魔術や黒ミサに精通した魔女であり、大規模な「ほれ薬」や「毒薬」の製造販売で多額の富を築きました。顧客には多くの著名人がいたそうで、ルイ14世の愛人であったモンテスパン侯爵夫人フランソワーズ・アテナイスも顧客のひとりだったといわれています。

ラ・ヴォワザンのケースは魔女の中でもかなり異例といえるものですが、比較的裕福な暮らしを送っていた魔女は珍しくありませんでした。実際に魔女だったかどうかはともかく、魔女狩りの標的になった女性の多くは独り身で自立した女性だったそうで、1620年~1725年にニューイングランドで魔女裁判にかけられた女性の89%は裕福かつ財産を分け合う息子や兄弟がいなかったそうです。


異教徒や悪魔崇拝者として長らくキリスト教社会から迫害されてきた魔女でしたが、近年では魔女や異教の信仰が「ウイッカ」という呼称で認識されています。ウイッカの創設者と見なされているジェラルド・ガードナーは、1954年に「Witchcraft Today(今日の魔女術)」という本を出版することで、ウイッカの基礎を築きました。

21世紀に入って急速に魔女の数が増えているそうで、アメリカ合衆国国勢調査局が実施している(PDFファイル)アメリカ宗教識別調査の結果によると、2001年から2008年にかけてウイッカの信者が13万4000人から34万人に増加したとのこと。アメリカのシンクタンクであるピュー研究所が2014年に行った調査では、アメリカ人の0.3%に当たる100万人がウイッカやそれに類する異教を信仰していると推定されています

こうした現代の魔女は信者に対し、スピリチュアルなつながりを保つために十字架付きの数珠やお香、水晶など、さまざまな装身具を販売しています。これは13世紀の船乗りに販売された「風の結び目」と同様に、魔女たちに長期的な収益をもたらす可能性があるとLenoir-Jourdan氏は指摘しています。

アメリカでは魔力がこもった装身具の販売以外にも、「ゴースト見学ツアー」の主催や「顧客から負のエネルギーを遠ざける魔術」の実践など、さまざまなビジネスを手がける魔女がいるとのこと。手相占いや霊媒、占星術師を含めたアメリカの魔術産業は、中小の事業者が中心でありながらも年間22億ドル(約2300億円)もの市場規模を誇るそうです。


現代の魔女は必ずしも地域に根ざした活動のみを行っているのではなく、インターネットやSNSといったテクノロジーをフルに使って商売を行っています。TikTokでは「#witchtok」というタグ付きで投稿された魔女や魔術関連のムービーが54億回以上も再生されており、Instagramでは550万件以上の投稿に「#witchesofinstagram」というタグが付けられています。

SNS上で知名度を高めた魔女たちは、キャンドルやSpell bottle(まじないをかけたハーブを詰めたボトル)、五芒星のネックレスといった製品を、手芸品を扱うオンラインショッピングサイトのEtsyなどで販売しています。たとえばEtsy上で「Spell bottle」というワードを検索すると、実に4000件以上のSpell bottleが販売されていることがわかります。


また、魔術産業に参入しているのは個人事業を営む魔女だけではなく、大企業もさまざまな製品の販売を行っています。たとえば、おもちゃ会社のパーカー・ブラザーズが特許を所有する、降霊術や心霊術用の文字盤である「ウィジャボード」は、年間で200万個も販売されています。

2018年にはルイ・ヴィトン傘下で化粧や香水を扱う専門店のセフォラが、「初心者向け魔女キット」をオンラインで販売を開始。キットにはタロットカードやローズクオーツのクリスタル、乾燥したセージ、フレグランスなどが含まれていました。

「初心者向け魔女キット」がオンラインで販売開始 - GIGAZINE


セフォラの初心者向け魔女キットは世界中の魔女が「文化盗用」と非難したため販売が取りやめられましたが、依然として大手メーカーによってタロットカードやクリスタルの販売が行われています。「魔術の商品化によって、現代の魔女は火刑に処されたり水に沈めて溺死させられたり、拷問されたりすることを恐れずに、経済的繁栄を手に入れることができました」と、Lenoir-Jourdan氏は述べました。

なお、ロンドンには魔法道具を専門に販売する店舗も実在しており、杖や魔女鍋、パワーストーンなど多種多様な商品が販売されています。

ロンドンに実在する魔法専門店には杖や魔女鍋から「イヤな奴を家に入れない呪い(約3600円)」まで本当に売っている - GIGAZINE

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in メモ, Posted by log1h_ik

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