サイエンス

長期のメンタルトレーニングが慢性的なストレスを25%軽減することが「髪の毛」の分析で判明


現代人は仕事や日常生活でさまざまなストレスにさらされており、メンタルヘルスの悪化や身体への悪影響が懸念されています。ストレスを軽減する方法としてマインドフルネスなどのメンタルトレーニングに注目が集まっていますが、その効果を客観的な方法で測定するのは難しいもの。新たな研究ではメンタルトレーニングの効果を測定するため、「髪の毛」を用いた分析を行ったことが報告されています。

Contemplative Mental Training Reduces Hair Glucocorticoid Le... : Psychosomatic Medicine
https://journals.lww.com/psychosomaticmedicine/Fulltext/2021/10000/Contemplative_Mental_Training_Reduces_Hair.10.aspx

Meditation training reduces long-term stress, according to hair analysis
https://medicalxpress.com/news/2021-10-meditation-long-term-stress-hair-analysis.html

これまでの研究から、慢性的なストレスは記憶力や思考力を低下させ、脳を収縮させてしまうことや、さまざまな生活習慣病を引き起こすことが知られています。そのため、日常のストレスを長期的に軽減する方法が模索されており、瞑想などを通じて現在起きている経験に焦点を当てるマインドフルネスなど、さまざまなメンタルトレーニングが科学的な研究の対象となっています。

メンタルトレーニングがストレス軽減の効果をもたらすことは複数の研究によって報告されていますが、その効果を客観的に測定することは困難です。通常、ストレスとメンタルトレーニングの関係を調べる研究の参加者は、トレーニングの前後にストレスレベルを自己評価することが求められます。しかし、このアンケートによる自己評価というプロセス自体が、結果をゆがめて実際よりもメンタルトレーニングの効果を大きく見せてしまう可能性があるとのこと。

研究の参加者は「自分がメンタルトレーニングを行っている」と知っており、その結果としてストレスが軽減されることが望ましいこともわかっています。ドイツのマックス・プランク人間認知・脳科学研究所の博士研究員であるLara Puhlmann氏は、この認識だけでもバイアスが生じ、その後の自己評価がゆがんでしまう可能性があると指摘しています。


メンタルトレーニングに関してはプラセボ効果が大きな影響を及ぼす上に、新薬の効果を測定する試験のように偽薬を使った二重盲検試験を行うことができません。Puhlmann氏は、「被験者は(ストレスの)解毒剤を服用していることを知っています。従って、マインドフルネスの研究ではストレス軽減の効果をより正確に測定するために、より客観的な方法、すなわち生理学的な方法を用いるケースが増えています」と述べています。

Puhlmann氏らの研究チームはメンタルトレーニングの効果を客観的に測定する方法として、被験者の「髪の毛」に含まれるコルチゾールというホルモンを調べる手法に着目しました。コルチゾールは副腎皮質から分泌されるストレスホルモンの一種であり、ストレスと関連してよく研究されているバイオマーカーです。分泌されたコルチゾールは体内を循環し、髪の毛にも時間と共に蓄積していきます。髪の毛は1カ月に約1cm伸びるので、根元から3cmの範囲を調査すれば直近3カ月のストレスレベルが測定できるとのこと。

研究チームは注意力やマインドフルネス、思いやりや感謝の気持ちを持つ社会的感情スキル、自分や他人の認識を取り入れる社会的認知スキルに焦点を当てた、東洋や西洋のメンタルエクササイズに基づく3種類のメンタルトレーニングを用意しました。そして被験者を約80人ずつ3つのグループに分けて、それぞれのメンタルトレーニングを異なる順序で3カ月ずつ、合計9カ月間にわたって実践してもらう実験を行いました。

各メンタルトレーニングにおいて、被験者は最初に3日間の集中的な実践を行ってトレーニングの概念的な部分やエクササイズを習得し、その後は毎週2時間のグループセッションと1回30分の個人セッションを週5日行いました。研究チームは3カ月ごとに被験者の髪の毛を根元から3cmずつ採取し、髪の毛に含まれるコルチゾールの量を分析したと述べています。


分析の結果、被験者は実践したメンタルトレーニングの内容に関係なく、最初の3カ月でわずかにコルチゾールの量が減少し、その後の3カ月でさらにコルチゾールの減少が加速したことが判明。メンタルトレーニングを始めてから6カ月が経過すると、コルチゾールの量は研究前と比較して平均25%も減少し、最後の3カ月間も同様に低い状態を保ち続けたことも分かりました。

研究チームは今回の結果から、長期的なメンタルトレーニングがストレスを軽減効果をもたらし、人々が慢性的なストレスに対処する役に立つ可能性があると主張しています。Puhlmann氏は、「世界にはうつ病をはじめ、長期的なストレスが直接または間接的に関係する病気が多くあります。私たちは慢性的なストレスの影響を予防的に食い止める努力をする必要があるのです。私たちの研究では、生理学的な測定値を用いて、瞑想ベースのトレーニングによる介入が、健康な人であっても一般的なストレスレベルを軽減できることを証明しています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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