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30年以上英語を教えてきた大学教授が「もっと早くテストで成績をつけるのをやめればよかった」と後悔、成績をつけない新しい評価スタイルとは?


テスト期間は気が重くて仕方ないという学生や、学生時代に小論文などの課題がつらかった経験がある人は多いはず。テストの結果は科目や単位の成績を左右する重要なものですが、30年以上大学で英文学を教えてきたベテラン教授が、筆記試験で成績をつけるのをやめた経緯と、それに代わる成績の評価スタイルについて論じています。

I no longer grade my students' work – and I wish I had stopped sooner
https://theconversation.com/i-no-longer-grade-my-students-work-and-i-wish-i-had-stopped-sooner-179617

アメリカ・リッチモンド大学で児童文学やビクトリア朝文学を教えているエリザベス・グルーナー氏によると、アメリカの教育現場に「A~F」で成績を付ける「格付け方式」が広まったのは1940年代とのこと。しかし、生徒の成績をランク付けするこのシステムには、「最初に予備知識がなかった生徒は、初期のテストでの点数が低いので、後で科目の内容を習得しても最終的な平均点が低くなってしまう」「生徒の学習の効果を測定するどころか、やる気を損ないストレスを増大させる」という問題があると、グルーナー氏は指摘しています。

また、新型コロナウイルス感染症により遠隔教育に切り替えざるを得なくなった際は、多くの教育機関が学生のストレス軽減や人種間の不平等の改善を目的に、成績を「合格/不合格」の2種類にする方針をとりました。しかし、結局狙い通りの効果が得られなかったことから、格付け方式に戻されたのが実情とのことです。


一方、グルーナー氏はパンデミックが発生するより前の2018年ごろから、論文の課題の成績を格付けするのをやめる方針に移行していました。その理由は、次の3つです。

◆理由1
グルーナー氏が成績を格付けしなくなった最初の理由は、学生が提出した課題に対するグルーナー氏のコメントに集中して欲しかったことです。格付けをしてしまうと、生徒はそこにばかり目が行ってしまいます。しかし、格付けをしなくなったことで、生徒は自分の課題に対するグルーナー氏のフィードバックに集中してくれるようになりました。

◆理由2
第2の理由は、教育の格差があるということです。教育の機会に恵まれてきた学生は、最初から「A」評価や「B」評価がつく論文が書けるので、その成績を目当てにグルーナー氏の講義を選択してきます。そのため、グルーナー氏はよく「自分が格付けしているのは生徒の成績ではなく生徒の生い立ちではないか」との錯覚に襲われていたとのことです。

◆理由3
最後の理由は個人的なもので、単純にグルーナー氏は生徒の成績を格付けするのが嫌いだからとのこと。反面、グルーナー氏は生徒を教えるのも、生徒にフィードバックを与えるのも好きでした。そのため、生徒を格付けしなければいけないという義務感から解放されたグルーナー氏は、生徒が書いた論文に示唆に富んだコメントを書いたり、改善点を提案したり、生徒と対話をしたりして、より有意義な授業ができるようになったそうです。


以上の理由で格付けをやめたグルーナー氏ですが、グルーナー氏が教えているのは大学なので、学期末が来れば生徒になんらかの評価をしなくてはなりません。そこでグルーナー氏は、学期末に自分の学びを振り返って評価する小論文を提出させ、成績を自分自身でつけさせるスタイルを取っています。

グルーナー氏には、学生の自己評価を修正する権限がありますが、実際にそうすることはほとんどないとのこと。また、過大評価を下方修正するのと同じくらいの頻度で、上方修正もしているそうです。


グルーナー氏が最初に成績をつけないと宣言した時、生徒は困惑してさまざまな質問をしてきました。例えば、「頼めば成績を教えてもらえるんですか?」という質問に対するグルーナー氏の答えは「ノー」。なぜなら、文字通り成績はつけていないからです。

また、「学期の中間でそれまでの成績を修正することはありますか?」との質問への答えも「ノー」です。なぜなら、グルーナー氏は個別の試験や課題の結果ではなく、授業全体を通した評価をしているからです。さらに、「それだと自分がこのクラスでどのくらいのポジションなのか分からない」という生徒には、「自分がどのくらい進歩しているかは、君の課題に対する私のコメントや私との対話から十分に分かるはずです」と答えたそうです。


この「格付けなし(ungrading)」というスタイルを採用してから、グルーナー氏にはさまざまな事柄が見えてきました。例えば、児童文学の講義を取った学生の中には、学力に自信がないので、読むのが楽で簡単に単位が取れそうな講義を選んだという学生が一定の割合でいることが分かりました。そういう生徒に対してグルーナー氏は、自分の学力に自信がなくても能力を伸ばして目標を達成できると体験してもらうようにしているそうです。また、生徒には授業の初め、中間、学期末の各段階で各自が設定した目標を振り返ってもらい、必要に応じて修正させることが重要だというのも分かりました。

時間をかけてこのスタイルの見直しと改善を重ねた結果、グルーナー氏の評価と生徒の自己採点はほとんどの場合ぴったり一致するようになりました。また、教育に恵まれず準備不足の状態で授業を受け始めた生徒も含め、大半の生徒が成長を実感できるようになり、ある生徒はグルーナー氏に、「大人として扱ってくれてありがとう」と感謝の言葉を述べたそうです。

こうした経験から、グルーナー氏は「彼らが私の指導から利益を得ているのは確かですが、『自分のリーディングやライティングにおいて何が重要なのかを自分で決める』という経験から得られるものはそれ以上に大きいかもしれません。また、格付けに縛られることなく生徒の学びと成長を助けられるのは、私にとっても大きなメリットです」と結論づけました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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