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AI戦争に勝利する方法とは?


戦争とその抑止はAIによって定義される時代になっており、AI競争に勝利した者こそが経済的・軍事的に支配力を手に入れることになります。政府は今後どのように行動して「勝利」に近づくべきかを、急成長を続けるAIプラットフォーム「Scale AI」のCEOであるアレクサンドル・ワング氏が自身のウェブサイトで解説しています。

The AI War and How to Win It - by Alexandr Wang
https://alexw.substack.com/p/war

ワング氏はAIベースの技術が戦争で大いに活用されると述べています。実際に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナ国防省が顔認証技術を利用してロシア側の工作員や戦死者の特定に活用したり、航空写真から戦争の被害状況を分析するAIが活躍したりと、戦争のシーンでもAIが活用されています。しかしワング氏はさらに、「近い将来、AIを活用してターゲットを特定する自律型ドローンが、戦争を定義するまでになります」と述べています。

ウクライナがClearview AIの顔認識技術を利用開始、ロシア側の戦死者や工作員の特定に活用か - GIGAZINE


ワング氏によると、AI研究のペースはムーアの法則に独自の形で従っており、2年ごとに1カ月あたりに発行されるAI論文の数が2倍に増えているそうです。「商業部門におけるAIのルネッサンスが起きている一方で、軍事力へのAIの適用や、アメリカが他国に追い越されるという明白なリスクは、取り組まれていません」とワング氏は懸念を語っています。


最も重要な脅威としてワング氏が挙げているのは、中国の成長です。中国の半導体技術の進歩はめざましく、中国はAIを国家安全保障技術の「飛躍的な開発の歴史的な機会」と見なしています。ワング氏によると、中国は「アメリカが古典的な『イノベーターのジレンマ』に陥る」と考えており、進歩が進んだために成熟したシステムに過剰に投資し、新しい破壊的技術であるAIへの投資を過小評価してしまうアメリカよりも、既存の防衛産業の基盤が薄い中国の方が、AIではるかに優位に立つとのこと。

また、中国の軍事部門は2020年の総国防予算1780億ドル(約25兆円)のうち1%から1.5%をAIに費やしており、アメリカが国防予算の0.1%から0.2%程度しか費やしていないことと比較して、総軍事予算で10倍以上の支出を中国は行っています。アメリカ政府も実際にその脅威を認識しており、2022年10月にはアメリカは中国のAIを駆使した兵器開発等を恐れ、中国への半導体輸出を取り締まる規則を発表しています。

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またワング氏は、既にいくつかの技術的分野で中国のAIがアメリカのものを上回っていると示しています。以下の画像は、確立されたベンチマークを用いた画像認識でトップ5と評価されたアルゴリズムで、それらはすべて中国の企業・大学が制作したものとなっています。


また、以下は航空画像からオブジェクト検出を行うグローバルチャレンジの順位表で、3位に韓国の大学が入賞している以外は、1位、2位、4位、5位は中国の企業・大学が獲得しています。


さらに、自然言語の理解と推論のための大規模言語モデル(LLM)の分野では、アメリカの大手企業であるOpenAIがトップを走っていますが、そのリードも中国企業から1年以内の差まで追随されているとワング氏は指摘しています。

中国がAI分野で優位に立っているとワング氏が主張するもう一つのポイントとして、中国が容赦なくAIを使用する点を挙げています。選挙中にAIを用いてアメリカが台湾の支持を放棄したという偽の記事を生成したり、政府が国内のウイグル族を追跡するアルゴリズムを導入したりと、中国政府はAI技術を用いた独裁政権にためらいなく進んでいます。加えて、2028年ごろまでに中国が台湾へ侵攻する可能性をワング氏は懸念しており、それがタイムリミットとしてプレッシャーになると警告しています。


中国の急成長に対抗してアメリカがAI開発で勝利する方法として、現在のAI運用モデルが破滅をもたらすことを認識した上で、ワング氏は「AIオーバーマッチ戦略」と名付けた4つの戦略を提案しています。

・データの優位性を保つ
AIは常にデータに帰着するため、データ設備への投資を通じて、アメリカの強みである巨大な軍事用ハードウェアをデータの利点に変換することができたら、まず一歩先を行く事ができるとワング氏は述べています。破棄されるか秘匿されていた軍内部のデータを優位なものと認識することがまず大事な点とのこと。

・長期的な投資としてAIの10年計画を立案
中国はAI戦略に10年計画を進めており、それに対抗するためにはやはり長期的な道筋を描く必要があるとワング氏は述べています。ワング氏によると、AI対応ではない軍事力は対AIの戦いでほとんど役に立たなくなるため、AI以外の機能に投資することを裂け、既存の軍事能力をAIで近代化するか、従来の軍事能力を廃止して新しくAIに対応した能力を作るか、という選択が必要になります。

・革新的な挑戦に投資を行う
アメリカ国防総省内で開始された過去最大のプログラムは、現在の戦闘機を混乱させる可能性のある主要なAI機能を、5年間かけてもまだ運用できていません。このように、既存のテクノロジーの維持に集中すると進歩が大きく遅れるため、既存の概念を破壊する革新的なプログラムに投資していくことをワング氏は推奨しています。

・技術習得のための人間への投資
技術が進歩しても人間は常に戦争から離れることはなく、AIに投資すると同時にAIの基礎について軍人を訓練する必要があります。また、軍の指揮官は軍内部のデータを資産として使用する方法を知っている必要があります。国防総省は、従来の戦争の概念へ単にAIを追加するのではなく、AIに対応した未来を認識した上で原則や概念の刷新を行う必要があるとワング氏は結論付けています。

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in ソフトウェア, Posted by log1e_dh

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