サイエンス

ドローンやボートの騒音を大幅に軽減して効率性向上も期待できる「環状プロペラ」とは?

by MIT Lincoln Laboratory

空を飛ぶドローンはすでに映像撮影に広く利用されているほか、交通渋滞などに左右されない荷物の配送にも役立つと期待されていますが、ドローンが発する騒音は広範な展開における障害となり得ます。新たに、マサチューセッツ工科大学(MIT)とアメリカ国防総省の出資で設立されたリンカーン研究所の研究チームが、ドローンの騒音を大幅に軽減できる「環状プロペラ」を開発しました。

The toroidal propeller, one of the Lab's @RD100Awards winners, has a unique, closed-form propeller design that makes it a significantly quieter alternative to common multirotor propellers on commercial uncrewed aerial vehicles. https://t.co/hgda3NgYIz pic.twitter.com/5XkIxNVPHd

— Lincoln Laboratory (@MITLL)


Toroidal propellers: A noise-killing game changer in air and water
https://newatlas.com/aircraft/toroidal-quiet-propellers/

MIT's latest drone propellers are very quiet and efficient
https://interestingengineering.com/innovation/mits-latest-drone-propellers

プロペラは複数枚のブレードが回転することで原動力から出力される力を推進力に変えるための装置であり、紀元前から世界中のさまざまな地域で使われてきました。基本的なプロペラの構造は長年にわたり変化しておらず、プロペラ駆動式の飛行機では2400年前に中国の子どもたちが遊んでいた竹とんぼと同様のデザインのものが使用されているほか、ボートに使われるスクリュータイプのプロペラも18世紀までさかのぼることができるとのこと。

しかし、ドローンやボートのプロペラは大きな騒音を生じさせるため、ドローンの広範な展開における課題の1つとなっているほか、ボートの騒音はイルカなどの海洋動物に悪影響を及ぼしていると指摘されています。

そこでリンカーン研究所の研究チームは、従来とは異なる形状のプロペラを用いてドローンの騒音を軽減する研究を行いました。リンカーン研究所の熱流体エンジニアリンググループ上級スタッフであるトーマス・セバスチャン博士は、「私たちが知っている通り、プロペラはかなりうるさいです」と述べており、かつて飛行機開発の黎明(れいめい)期に提案された「環状翼」に着想を得て、新たなプロペラの開発に取り組んだと説明しています。


環状翼とは、以下のような筒状の翼のこと。


セバスチャン博士らの研究チームは、3Dプリンターで環状プロペラのプロトタイプを作成。


実際に環状プロペラを回転させたところ、通常のプロペラよりも環状プロペラの方が静かであることがわかりました。


通常のプロペラでは渦がブレードの先端で生成されますが、環状プロペラでは全体に渦が分散され、大気中で消散しやすくなるとのこと。これによって渦が遠くまで波及せず、耳に届く騒音も少なくなるという仕組みだそうです。


ドローン用環状プロペラはまだ初期段階ですが、単に静音化を達成するだけでなく、特定の出力レベルでは従来のプロペラより多くの推力を生み出すことができたとのこと。なお、環状プロペラは形状が複雑なため、従来のプロペラよりも製造コストは高くなるとみられていますが、プロペラはドローンの中では比較的安い部品のため、多少コストが増加しても全体の価格にはそれほど影響しない可能性があります。


環状プロペラが有効なのは空中だけでありません。アメリカに拠点を置くSharrow Marineという企業は、すでにボートのスクリューに使用する環状プロペラを開発しています。

toroidal propellers turn your drones + boats into noiseless machines
https://www.designboom.com/technology/toroidal-propellers-quiet-efficient-alternatives-aerial-marine-sectors-01-27-2023/

Sharrow MX™ Video - YouTube


Sharrow Marineの環状プロペラはブレードの先端がもう一方のブレードに向かって湾曲し、閉じたループを構成しています。


これによってブレードの先端に発生する渦とキャビテーションを低減することで、全体的な騒音を軽減しつつ効率性も向上しているとのこと。


実際にSharrow Marineが公開している、通常のプロペラ(スクリュー)と環状プロペラの騒音の違いを比較した動画が以下。聞き比べてみると、いかに環状プロペラの騒音が小さいかがわかります。

Standard vs Sharrow MX™ Noise Comparison - YouTube

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in 乗り物,   サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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