ゲーム

累計売上5000億円超の「原神」が登場するまで中国産RPGがたどった歴史とは?


中国のゲーム会社・miHoYoが開発した「原神」は、リリースから2年間で累計売上37億ドル(約5000億円)を記録する大ヒットとなっています。そんな原神が登場するまでの中国産RPGの歴史を、日本在住のブラジル人マーケターのフェリペ・ペペ氏がまとめました。

Before Genshin Impact: A brief history of Chinese RPGs | by Felipe Pepe | Medium
https://felipepepe.medium.com/before-genshin-impact-a-brief-history-of-chinese-rpgs-bc962fc29908

中国には大まかに分けると「本土」「香港」「台湾」という3つの地域があり、それぞれがユニークな社会経済的シナリオおよび規制を持っています。例えば、家庭用ゲーム機は2000年から2014年まで中国本土で禁止されていましたが、香港および台湾では合法的に購入することが可能でした。

また、香港および台湾では繁体字が使用されていますが、本土では簡体字が使用されているという違いがあります。以下の画像の上部(Traditional)が繁体字で、下部(Simplified)が簡体字。左から風・国・開・愛ですが、ものによってはかなり形状が異なることがわかるはず。


2000年以降に登場したゲームでは、オプションから繁体字と簡体字の両方が用意されていますが、それ以前は用意されていなかったそうです。そのため、台湾人が中国本土発のゲームをプレイするには、いつも読んでいる繁体字ではなく簡体字を読まなければいけないというケースもあったそうです。

中国のゲーム産業は1980年代半ばに台湾でスタートしており、主にApple IIとIBM PC向けのものばかりだったそうです。また、当時の輸入コストの高さや、中国語をサポートしているゲームが少なかったことから、選択肢そのものも非常に少なかったそうです。


ウルティマKing's Questといった西洋発のゲームは、台湾のゲーマーたちがグループになってゲームの説明書などを翻訳し、ゲームの海賊版と一緒に自作の翻訳版説明書やガイドを販売していたそうです。なお、当時の著作権法は非常に緩かったため、こういった行為も違法ではなかった模様。

以下は有志が中国語に翻訳したウルティマ III Exodusの説明書


1986年までにこういった海賊版を販売しながら説明書を翻訳するグループのひとつであったJingxunが、Jingxun Computer MagazineというPCゲームに焦点を当てたゲーム雑誌を出版するようになります。Jingxun Computer Magazineは発売予定の海賊版ゲームを宣伝したり、攻略法を提供したりしていた模様。

1986年に発売されたJingxun Computer Magazineの第2号ではバーズテイルの攻略法が載っていました。


ポーランドのCD ProjektやウクライナのGSC Game World、ロシアのAkellaといったゲーム企業と同じように、Jingxunは海賊版の販売や翻訳から、オリジナルタイトル開発へと移行していきます。こうして誕生したのが、Kingformationというゲーム会社です。

KingformationはJingxun Computer Magazineを通じて国内のゲーム開発者に、ドラゴンクエスト I・II・IIIのクローンゲームの作成を依頼します。これはドラゴンクエスト I・II・IIIのコードにアクセスすることなくプレイできる、中国産RPGの走りだったそうです。


さらに、Kingformationは1987年に「MX-151」を公開。これはウルティマ III Exodusの粗雑なクローンだったそうですが、「これがおそらく国内初のオリジナルRPG」とペペ氏は記しています。


その後、Jingxunの創設者のひとりは1988年にKingformationを去り、自身のゲーム雑誌とゲームパブリッシャーの組み合わせであるSoftstarを立ち上げます。さらに、アメリカからの制裁により、台湾は1989年7月に著作権規則を改正せざるを得なくなり、アメリカ企業が台湾の海賊版作成グループを訴えることが可能になります。これにより、Kingformationはゲーム雑誌と海賊版の輸入を止め、単なるゲームパブリッシャーへと変身します。一方で、Soft-Worldなどの台湾の海賊版出版グループはアメリカのゲーム企業と正式なライセンスを結び、海外ゲームの販売を行うようになっていったそうです。

前述の台湾ゲーム企業たちは年に数本のゲームをリリースしていきます。Softstarは1989年に「Monopoly」をリリースしており、これは台湾の初期のゲーム市場において最も人気のあるゲームのひとつに成長したそうです。他にも、Softstarは1990年に「Xuan-Yuan Sword」をリリースしており、「ドラゴンクエストのクローンながら、素晴らしいアートワークとプレゼンテーションを備えており、格闘技とファンタジーの要素が混在した設定は際立っています」とペペ氏。


他にも、Kingformationが1991年に「Legend of the Chivalrous Hero」、Soft-Worldが1991年に「Eight Swords of Shenzhou」、Softstarが1991年に「Fantasy Zone of Computer」、Dynasty Internationalが1992年に「Book of the Sword Saint」、Softstarが1993年に「天使帝國」といったゲームをリリースしていますが、その多くがすでに発売されている海外発の人気ゲームを模倣しながら独自の設定やグラフィックを盛り込んだものになっていたそうです。

これらはあくまでほんの一例であり、1990年代前半には中国発のRPGが数十種類リリースされたそうです。多くのゲームがオリジナルというよりは海外ゲームを模倣したものでしたが、Softstarの「Xuan-Yuan Sword」シリーズのように何十年にもわたりリリースされることとなる人気シリーズとなった作品もあります。

1995年にはSoftstarが「Legend of Sword and Fairy」あるいは「Chinese Paladin」、「PAL95」と呼ばれるゲームをリリースします。これは叔母のために薬を求めて神秘的な島を旅する男性が、若い女性と出会って結婚するものの、翌日に記憶を失ってしまうというストーリーの中国産RPGです。


この作品のリリースが台湾のゲーム業界にとって画期的な出来事であった理由はたくさんありますが、「最も重要なのはドラゴンクエストが日本で行ったのと同様に、中国産RPGがどうあるべきかのモデルを確立したことにあります」とペペ氏は記しています。

さらに、Chinese Paladinは海外産のゲームと同等のクオリティであり、いくつかの点においては上回っていたとペペ氏。特に、Chinese Paladinのストーリーは伝統的なRPGのものを模倣することなく、感情的でロマンチックなものに仕上がっており、他のゲームよりもはるかに成熟していたとのこと。

Chinese Paladinのヒットはすさまじく、複数の続編が登場しただけでなく、リメイク版(2001年)、テレビシリーズ(2005年、2021年)などもリリースされています。左は1995年に発売された初代Chinese Paladinのグラフィックで、右は2001年に発売されたリメイク版のグラフィック。


「Xuan-Yuan Sword: Dance of the Maple Leaves」は1995年に発売された中国産RPGの最高傑作のひとつ。プレイヤーは墨家の創始者である墨子の弟子として、公輸盤などの歴史上および神話上の人物が存在する世界を旅し、戦争を防ぐために戦います。


1996年にリリースされた「Heroes of Jin Yong」も、この時代の中国産RPGの代表作のひとつ。同作はHeluo StudioによるオープンワールドRPGで、プレイヤーは中国のベストセラー作家である金庸となり、武術を学び、自身の小説を収集するための旅に出ます。


中国のゲーム開発者の進化は非常に速く、1990年代前半は海外ゲームの単純なクローン作品を作成していましたが、1990年代半ばにはオリジナル作品を作成できるようになり、1990年代後半から2000年代前半までにはその成長率がピークに達します。そうして誕生したのが、中国のゲーム業界で今も頂点に君臨する偉大な作品である「Xuan-Yuan Sword 3: Beyond the Clouds and Mountains」です。


2001年にリリースされたHeluo Studio2作目のゲームである「Legend of Wulin Heroes」も非常に人気のある作品。主人公は武術学校に入学し、さまざまな訓練を受けながら、武器と武術のスタイルを習得していきます。訓練の合間にプレイヤーは世界を旅して人々を助け、武道家と友達になることができます。ゲームにはさまざまなルートとエンディングが用意されており、有名人になったり悪名を轟かせたりすることができます。


「Legend of Wulin Heroes」は2015年に「Tales of Wuxia」(左)としてリメイクされ、スピンオフとして「Path of Wuxia」(右)が2021年にリリースされていますが、「残念ながら翻訳の質が低いためゲームの魅力の一部が失われてしまいます」とペペ氏。なお、記事作成時点ではアーリーアクセス版がリリースされているPath of Wuxiaについて、ペペ氏は「ハリー・ポッターに出てくるホグワーツの武術学校版のようなもの」と表現しています。


なお、1990年代から2000年代にかけて、200以上の中国産RPGがリリースされたそうです。中国産RPGで最も人気のある設定は、武侠や仙侠、戦国時代や三国志などを題材としたものだそうです。しかし、すべてがこれらのジャンルにおさまるというわけではなく、西洋風のファンタジー作品も多くあります。以下は左から「Flame Dragon II」「The Fighting Blast」「Thunder Force」で、特にFlame Dragonシリーズは中国で最も愛されているタクティカルRPGシリーズのひとつ。


その後、2000年代初頭になって中国製ゲームがアメリカやロシア・韓国・日本などに輸出されるようになります。中国産RPGを国外に輸出する際の問題は、ストーリーや設定が中国の文化や歴史に重点を置いているため、翻訳が困難という点でした。そのため、ペペ氏は「原神の優れた翻訳でさえ、中国語の密度の高さを捉えることができません」と指摘しています。

インターネットが普及するにつれ、1人プレイのRPGよりもオンラインゲームが流行するようになり、その流れは中国にも到来します。中国では1996年に台湾の国立大学がリリースした「King of Kings」が、1999年によりグラフィカルなMMORPGに進化し、多くのユーザーを集めることとなります。


その後、日本の「ストーンエイジ」や韓国の「The Legend of Mir 2」といったMMORPGが流行し、中国におけるMMORPG市場は指数関数的に成長していきます。その後、2001年にリリースされた中国発のMMORPGである「Fantasy Westward Journey」は、生涯売上が65億ドル(約8900億円)、登録ユーザー数は4億人を超えました。


中国でオンラインゲームが非常に人気が高く収益性も高かったのは、長年の課題であった著作権侵害の心配がなく、基本プレイ無料であり、中国が世界でも最大級のPCゲーム市場を持っていたためだそうです。

中国でオンラインゲームが流行するにつれ、「基本プレイ無料」で「課金で収益を稼ぐ」というスタイルのゲームが中国のモバイルゲーム市場で流行します。ただし、これは中国に限らず世界的に起きた現象で、日本やアメリカの企業でも同じように古典的な1人プレイのRPGが消え、スマートフォン向けゲームのような基本プレイ無料のゲームが増えていったとペペ氏は語っています。

これに伴い、中国ではオフラインでプレイするPCゲームのリリース本数が劇的に減少していくこととなります。なお、「同じタイミングで韓国では1人プレイのRPGが絶滅した」とペペ氏は記しており、1人プレイRPGの衰退は中国だけでなく世界的な流れであったとしています。


1人プレイのRPGが衰退していく中、2020年に登場したのが「原神」です。原神はマルチプレイ可能なRPGですが、基本的には1人プレイ用のゲームです。また、原神はモバイル・PC・家庭用ゲーム機といったあらゆるプラットフォームを橋渡しすることにも成功しています。加えて、原神はローカライズやマーケティングといったこれまでの中国産ゲームにとって大きな障害となっていた点もクリアしているとペペ氏は称賛しています。その結果、原神は中国発のゲームとしてはこれまでで最大の成功を果たしており、リリースから2年で累計売上は37億ドルを超えました。

原神の登場以降も中国発の注目作品は複数登場していますが、まだ大きな成功を収めたと言えるものはほとんどありません。しかし、「中国産のRPGが世界市場でますます大きな役割を果たしていくことになることは明らかです」とペペ氏は記し、今後の中国ゲーム業界の動向を注視しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「原神」がリリースから1年の売上でフォートナイトを超えて歴代1位に、ポケモンGOの倍以上の売上を記録 - GIGAZINE

人気オープンワールドRPG「原神」のアニメ化が決定、アニメーション制作会社ufotableとの長期コラボプロジェクト - GIGAZINE

「原神」で今後9カ月分の更新内容やテスターの個人情報を含む大規模データ流出が発生 - GIGAZINE

PC版「原神」のアンチチートシステムを逆手にとってアンチウイルスを無効にするランサムウェア攻撃が発見される、「原神」をインストールしていなくても標的に - GIGAZINE

「RTX 4090」を使って原神を13K解像度でプレイする動画が登場 - GIGAZINE

in ゲーム, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.