サイエンス

素粒子の一種「Wボソン」の質量がこれまでの推測を上回る可能性、標準模型の修正も必要か


アメリカ・フェルミ国立加速器研究所の「テバトロン加速器」を使った実験で、弱い相互作用を媒介する素粒子であるウィークボソンWボソンが、これまで予測されてきた理論よりも重い可能性があることが発見されました。

CDF sets W mass against the Standard Model – CERN Courier
https://cerncourier.com/a/cdf-sets-w-mass-against-the-standard-model/


New ATLAS result weighs in on the W boson | ATLAS Experiment at CERN
https://atlas.cern/Updates/Briefing/2023-W-Mass-Measurement


Particle’s surprise mass threatens to upend the standard model
https://doi.org/10.1038/d41586-022-01014-5

ウィークボソンは素粒子物理学において、弱い相互作用を媒介する素粒子です。ウィークボソンは1968年に理論上存在することが予測され、1983年に欧州原子核研究機構(CERN)がその存在を確認しました。

ウィークボソンにはWボソンとZボソンの2種類が存在し、Wボソンの質量は2017年のCERNによる測定で、80.370±0.019ギガ電子ボルトとされてきました。

しかし、2022年4月にデューク大学のアシュトシュ・コトワル氏らの研究チームが、フェルミ国立加速器研究所のテバトロン加速器を使用して行った「CDF衝突実験」での測定結果は、Wボソンの質量を80.434±0.009ギガ電子ボルトと推測しています。

コトワル氏らによる測定結果は、これまで予測されていたWボソンの質量よりも0.064ギガ電子ボルト大きく、さらに誤差が0.009%とこれまでで最も高い精度で解析を行っています。この結果、現在の素粒子物理学の柱となっている「標準模型」と呼ばれる、素粒子の種類や質量、特性などの特性が説明できる理論の修正が必要である可能性が指摘されています。


この測定結果について、研究チームのデイビッド・トバック氏は「この測定が正しいか証明するのは、素粒子理論の専門家や他の実験次第です」と述べています。また「従来のWボソンの質量と今回の測定結果に生じた差が、ある種の新しい素粒子や亜原子粒子による相互作用によるものである可能性もあります。将来の実験でこのような新しい素粒子や亜原子粒子が発見される可能性は大いにあります」と述べています。

一方でCERNが2023年3月に測定結果を発表した、大型ハドロン衝突型加速器の実験装置の1つである「ATLAS検出器」を用いた測定では、Wボソンの質量が80.360±0.016ギガ電子ボルトであることが測定され、2017年に行われた測定よりも約0.1ギガ電子ボルト低いものの、この結果は標準模型で想定されるWボソンの質量と一致しているとされています。


しかし、コトワル氏らの測定結果やCERNによる測定結果のどちらが間違っているか、というわけではなく、Hacker Newsに「これまでに標準模型が間違っていると指摘されたことはありますか」という書き込みに対し、あるユーザーは「標準模型は完全に理解されておらず、今でも活発に研究されているため変動することがあります」と返答し、「『標準模型は間違っていますか』と尋ねることは、『RISC-VプロセッサでこのRISC-Vプログラムを実行できますか』と尋ねることと似ています。RISC-Vプロセッサや標準模型も、基本となる定義に加える拡張機能によって異なります」と付け加えています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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