サイエンス

ブラックホールと強力なジェット噴射を世界で初めて1枚の画像に収めることに成功

by Lu et al. 2023

ブラックホールは宇宙空間に存在する超高密度な天体であり、強い重力のため光すら吸い込むことで知られていますが、超大質量ブラックホールは物質を吸い込むだけでなくプラズマガスなどを高速でジェット噴射することもわかっています。新たに、日本の国立天文台を含む国際的な天文学研究チームが、世界で初めて「ブラックホールとそのジェット噴射を1つの画像に収めること」に成功しました。

A ring-like accretion structure in M87 connecting its black hole and jet | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-05843-w


M87巨大ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットの同時撮影に初めて成功 | EHT-Japan
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/c/pr/pr20230427


First direct image of a black hole expelling a powerful jet | ESO
https://www.eso.org/public/news/eso2305/

Astronomers snap 1st direct image of black hole blasting out a jet | Space
https://www.space.com/black-hole-jet-first-direct-image-m87

Black hole image captures jet of material launching into space | CNN
https://edition.cnn.com/2023/04/26/world/black-hole-jet-direct-image-scn/index.html

今回ジェット噴射と共に撮影されたブラックホールは、おとめ座のM87銀河の中心にある超大質量ブラックホールです。2019年に、複数の電波望遠鏡を結合させたイベントホライズンテレスコープ(ETH)を用いて世界で初めてブラックホールが撮像されたのも、M87の超大質量ブラックホールです。

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ブラックホールは物質を吸い込むだけでなく、プラズマガスなどを光速に近いスピードでジェット噴射していることもわかっており、このジェット噴射が複数の銀河にまたがって星の形成を促進しているという研究結果も報告されています。

以前にも、ブラックホールのジェット噴射はイベントホライズンテレスコープで撮像されています。しかし、ブラックホールの影(ブラックホールシャドウ)と呼ばれる光が存在しない部分と、ジェット噴射を1つの画像に収めたものはありませんでした。

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研究チームは2018年、チリのアルマ望遠鏡やグリーンランド望遠鏡が参加する電波望遠鏡ネットワーク「グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)」を用いてM87の中心部を詳しく観測しました。ETHは1.3mmの波長帯で観測を行うのに対し、GMVAは3.5mmの波長帯で観測を行っており、視力は劣るものの感度と視野でETHよりも優れているとのこと。

2018年の観測データを用いて作成され、今回新たに公開されたM87の超大質量ブラックホールとジェット噴射を同時に捉えた画像がこれ。左下にブラックホールシャドウがあり、その周辺にあるリング状構造(降着円盤)の両端からジェット噴射が伸びているのが確認できます。

by Lu et al. 2023

ブラックホールシャドウを拡大するとこんな感じ。

by Lu et al. 2023

降着円盤とジェットの根本を拡大した画像がこれ。南側と北側から大きな開口角でジェットが噴出し、下流側で次第に絞り込まれていく様子がうかがえます。

by Lu et al. 2023

論文の筆頭著者で上海天文台のルーセン・ルー主任研究員は、「これまではブラックホールとそこから遠く離れたジェットを別々の画像で見ていましたが、新たな波長帯を用いることでブラックホールを取り巻く詳細な構造とジェットを1枚のパノラマ写真の中に同時に収めることができました」と語っています。

ジェット噴射が降着円盤からどのように放出されているのかを画像に収めることで、超大質量ブラックホールの周辺で起きている複雑なメカニズムを解明し、ジェット噴射のメカニズムを理解することにつながります。


研究チームのメンバーであるマックスプランク電波天文学研究所のトーマス・クリッヒバーム博士は、「GMVAにアルマ望遠鏡とグリーンランド望遠鏡を組合せることで向上した観測性能は、ブラックホールが駆動するジェットの形成メカニズムについても新たな観測的知見をもたらしました」と述べています。

また、同じくマックスプランク電波天文学研究所のエドゥアルド・ロス博士は、「今後、M87の中心にあるブラックホール周辺の領域を異なる電波波長で観測し、ジェットの噴出をさらに研究していく予定です」「今後数年間で、宇宙で最も謎に包まれた領域の近くで何が起きているのか、さらに詳しく知ることができるようになるでしょう」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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