サイエンス

「レゴ」を使って人間の皮膚組織などを立体的に作成できる3Dバイオプリンターを作り出すことに成功


生物医学的な研究において人間の体組織を利用した実験は重要ですが、人間の体組織をサンプルとして入手することは容易ではありません。近年では、3Dプリンターの技術を用いて細胞を含んだ立体構造を作成する3Dバイオプリンティングも進展していますが、3Dバイオプリンターは高価であり、研究室によっては導入のための予算がないこともあります。そこでイギリス・カーディフ大学の研究チームは、交換可能で精度の高い部品を世界中の広い地域で安価に入手できる「レゴ」を使い、3Dバイオプリンターを安価に作り出すことに成功しました。

Development and Evaluation of a Low‐Cost LEGO 3D Bioprinter: From Building‐Blocks to Building Blocks of Life - Moukachar - 2023 - Advanced Materials Technologies - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/admt.202100868


We built a human-skin printer from Lego and we want every lab to use our blueprint
https://theconversation.com/we-built-a-human-skin-printer-from-lego-and-we-want-every-lab-to-use-our-blueprint-203170

生物医学の研究のために人間の体組織を入手する方法には、臓器提供や外科手術によって取り除かれた組織から体組織を得るルートがありますが、これらの手段で供給される体組織の量は限られています。また、プロジェクトの種類によっては特定のサイズや種類の体組織が必要となるため、必要な体組織がなかなか手に入らないこともあるとのこと。


近年登場した3Dバイオプリンティングは、体組織サンプルの調達における問題の解決策を提供しました。3Dバイオプリンティングでは、生きた細胞を含む「バイオインク」をカートリッジに入れ、これをプログラムに沿って3Dバイオプリンターで出力することで、生体組織の複雑な形状を再現する3D構造を作成することが可能です。

しかし、3Dバイオプリンターは高価であり、数百万円以上のものも少なくありません。予算の少ない研究室では、こうした高価な3Dバイオプリンターを導入することは困難です。そこでカーディフ大学の研究チームは、世界中の広い地域で安価に入手可能であり、精度の高い交換可能な部品が豊富な「レゴ」を使い、3Dバイオプリンターを自作することに成功しました。

実際に研究チームが作った3Dバイオプリンターは、以下の動画で見ることができます。

Printing synthetic human skin using a LEGO 3D printer - YouTube


「市販の3Dバイオプリンターは数万ポンド(数百万円)以上のコストがかかります」と述べるのは、カーディフ大学のクリス・トーマス博士。そこでトーマス博士らは、自分たちだけでなく世界中の研究者が利用できる、安価な3Dバイオプリンターを開発することに決めました。


そんなトーマス博士らが目を付けたのが、世界中の広い地域で容易に入手できるレゴだったとのこと。レゴは安価で幅広い用途に使えるだけでなく、それぞれの部品が高精度で標準化されており、同じ種類のブロックを使えば世界中のどこでも同じものを作ることが可能です。研究チームはマイクロ流体デバイスを組み込んで組織や細胞を正確に3Dプリントするため、機械的な機構をレゴに組み込むサブブランド・MINDSTORMSの部品を使用しています。


カーディフ大学薬学部のザイオン・コールマン博士は、3Dバイオプリンティングの導入によって、2次元の細胞培養で作られたプレートではなく3次元の立体細胞組織を実験に使えるようになると説明しています。かつて、平面のプレート上に培養された細胞組織で生物学的実験を行うことは一般的でしたが、人間の体組織は立体的であるため、立体的な細胞組織を使えばより正確な実験結果を得ることが可能となります。


論文の筆頭著者であるAhmed Moukachar博士の傍らにあるのが、今回開発されたレゴ製3Dバイオプリンターです。


レゴ製3Dバイオプリンターの見た目はこんな感じ。


小さなプラスチックのペトリ皿に、細胞を含むゲル状の物質が積層されています。


全体がレゴブロックで構成されており、構築にかかる費用は500ポンド(約8万3000円)とのこと。


3Dプリントにおいて重要なノズルやペトリ皿の移動を制御するのも、MINDSTORMSのミニコンピューターです。


レゴ製3Dバイオプリンターは、工学に通じていない学生でも部品さえあれば1日でまったく同じ物を作ることができます。研究チームは、世界中の研究室が同じレゴ製3Dバイオプリンターを作れるように、論文の補足資料で必要な部品リストや製造方法を説明しています。


研究チームは、「私たちの3Dバイオプリンターは現在、皮膚細胞の層を作成するために使用されており、本格的な皮膚モデルの作成に向けて取り組んでいます。また、異なるノズルを使用して異なるタイプの細胞をプリントし、組織サンプルにさまざまな複雑さを組み込むこともできます。健康な皮膚と病気の皮膚の両方を模倣し、既存の治療法を参考に、さまざまな皮膚病の新たな治療法を設計するエキサイティングな機会です」と述べました。

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in ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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