サイエンス

幼児にたくさん話しかけることが脳の言語領域の発達に変化をもたらすことが判明


乳幼児の頃からたくさん話しかけることが言語能力の発達を促すということは広く信じられており、実際に「幼少期に大人と会話した回数が将来的な認知能力などに影響する」という研究結果も報告されています。新たに、「幼児にたくさん話しかけることが、脳の発達に変化をもたらす」という結果を示した論文が、科学誌のJournal of Neuroscienceに発表されました。

Language exposure and brain myelination in early development | Journal of Neuroscience
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1034-22.2023


How talking to toddlers boosts early brain development
https://www.uea.ac.uk/news/-/article/how-talking-to-toddlers-boosts-early-brain-development

Talking to babies may contribute to brain development – here's how to do it
https://theconversation.com/talking-to-babies-may-contribute-to-brain-development-heres-how-to-do-it-205692

Talking to babies may help shape brain structure, research finds | Language | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2023/may/15/talking-to-babies-may-help-shape-brain-structure-research-finds

過去の研究から、幼児とたくさん話すことが認知能力や語彙(ごい)にメリットをもたらすことが示唆されています。そこで、イギリスのイースト・アングリア大学の心理学教授であるジョン・スペンサー氏らの研究チームは、生後6カ月の乳児87人と2歳6カ月の幼児76人に小型の録音装置を取り付け、3日間にわたって日常生活の音声を記録しました。

研究チームは163人の乳幼児から収集した合計6208時間にも及ぶ音声データを分析し、子どもたちがどれほどの会話にさらされているのかを調査しました。その結果、より高学歴の母親を持つ子どもほど日常生活でより多くの言葉を聞き、子ども自身もより多くの言葉を発することがわかりました。


さらに研究チームは、84人の子どもたちを病院の静かな部屋に招待し、眠ったタイミングでMRIスキャンを実施して脳内の構造を分析しました。すると、神経細胞(ニューロン)の軸索を取り囲んでいる脂質の層である「髄鞘(ずいしょう:ミエリン)」の量が、日常的にさらされる言語の量によって変動していることが判明しました。

通常、脳が発達するにつれてミエリンの量は増加します。研究チームは、より多くの言語を聞いた2歳6カ月の幼児ほど、脳内の言語領域におけるミエリンが多かったと報告しています。対照的に、生後6カ月の乳児においては日常生活で聞く言語の量が多いほど、脳内のミエリンは少なかったとのことです。


スペンサー氏は、「ミエリンはタンパク質と脂肪で構成されており、脳神経の周りに絶縁層を形成しています。これは脳の信号をより効率的にします。たくさんの穴が開いたホースがあると想像してください。ミエリンはホースをダクトテープで包むようなもので、神経線維を絶縁して脳領域へとより多くの信号をもたらすのです」と述べています。

2歳6カ月の幼児では聞いた言葉が多いほど言語領域のミエリンの量が多かったのに対し、生後6カ月の乳児ではミエリンが少なかった理由については不明です。しかし、スペンサー氏は「可能性の1つとしては、この結果は生後数年間における脳の発達の違いに関係しているのかもしれません。生後1年間は脳が新しい細胞を発達させるのに忙しく、多くの言葉を聞くことで脳の成長が促進される可能性があります」と述べています。


スペンサー氏は今回の研究結果を受けて、親は子どもとより多くの会話を交わすことが重要だと主張しています。その一方で、ロンドン大学の認知神経学者であるサロニ・クリシュナン氏は、今回の研究結果は確かに新しい知見をもたらすものの、子どもによりたくさん話しかけることがミエリンの形成を引き起こすと証明したわけではないと指摘しています。

クリシュナン氏は、「言語領域でミエリンが大きくなることが将来の言語や認知の発達に意味をもたらすのか、あるいはこのパターンが小児期を通じて安定しているのかは明らかでありません」「家庭でより多くの言語にさらされてミエリン形成が多い子どもは、言語能力の高い親からの遺伝子を受け継いでいます。言語環境に問題を帰着させる前に、この潜在的な遺伝的影響を調査する必要があります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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