サイエンス

超大質量ブラックホールが生み出す背景重力波の証拠をつかんだ「パルサー・タイミング・アレイ」とは何なのか?


2023年6月30日、重力波の検出を行っている天文学者のコンソーシアム・North American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves(NANOGrav)が「背景重力波の存在を示唆するデータを特定した」ことを発表しました。この背景重力波の痕跡をつかんだのが、世界中の電波望遠鏡で行われている研究プロジェクト・施設が「パルサー・タイミング・アレイ(PTA)」です。

International Pulsar Timing Array
https://ipta4gw.org/

今回NANOGravが発表した内容については、以下の記事で解説しています。

宇宙の起源の痕跡かもしれない「背景重力波」の証拠を検出か、2023年6月30日に「重要な発表を行う」と研究組織が声明 - GIGAZINE


日本時間で2023年6月30日午前2時に行われた発表会見は、以下のムービーで見ることができます。

NANOGrav - 15 Years of Gravitational Wave Research - YouTube


アルベルト・アインシュタインが提唱した一般相対性理論では、時空の歪みは重力波という形で広がることが主張されました。重力波自体は2016年に、アメリカのレーザー天文台「LIGO」によって検出され、存在が実証されました。

ついに重力波の観測に成功、光による宇宙観測を補完することで宇宙研究が大きく広がる可能性 - GIGAZINE


一般相対性理論によれば、太陽の数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが近づくとお互いに旋回しながら引き合い、時空間にゆがみが生まれ、そのゆがみが重力波となって光の速さで伝わります。もちろんこの超大質量ブラックホールは宇宙にたくさん存在しており、それぞれから発生した重力波が組み合わさって、宇宙全体を揺らす背景重力波を生み出します。


NONGrevは「宇宙のあちこちにあるブラックホールの連星から生まれたさまざまな波長の重力波が一緒になって、交響曲を生み出します。私たちはそれを背景(重力波)と呼んでいます」と述べています。

NANOGravは天文学者と天文物理学者のコンソーシアムで、宇宙に秘められた数々の謎を解決する目的で設立されました。そのNANOGravの研究目的の1つが、背景重力波の調査です。しかし、この背景重力波の波長はなんと数光年(1光年は約9兆5000億km)できわめて微弱であるため、理論的に存在は主張されていましたが、10-8~10-9Hzという低周波で微弱な重力波を検出することは非常に難しいものがありました。

そこで、この超低周波の背景重力波を検出するために考案されたプロジェクトおよび施設がPTAです。PTAが捉える「パルサー」とは、寿命を迎えて超新星爆発を起こした恒星の高密度な残骸で、強い磁気を持ちながら1~10ミリ秒で自転を行うため、電磁波を周期的に放出します。


PTAは、このパルサーが放出する周期的な電磁波を巨大な電波望遠鏡で監視するというプロジェクトです。


PTAは世界中の電波望遠鏡で行われており、NANOGravはグリーンバンク望遠鏡カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群電波望遠鏡CHIME・2020年に崩壊したアレシボ天文台を用いて、パルサーから放出される電磁波を観測していました。同様に、ヨーロッパのEPTA、中国のCPTA、インドのInPTA、アフリカのMPTA、オーストラリアのPPTAも、長年にわたってパルサーの電磁波を観測していました。PTAはいわば「宇宙のかなたにある超高精度な時計を電波望遠鏡で監視しているようなもの」で、そこにわずかな狂いが生じた時、その狂いの原因が背景重力波である可能性が高いというわけです。


NANOGravは15年にわたってのべ68個のパルサーを観測しており、長年にわたって他の天体からの干渉やノイズを除去して検証を重ねた結果、これまでの重力波よりもはるかに超低周波・超長周期である背景重力波の存在を示唆する「強力な証拠」が得られたとしています。


さらに今回、NANOGravと同時にCPTA・EPTA・InPTAもパルサーの観測データから背景重力波の存在を示すデータが見つかったと独自に報告しており、それらのデータも主張を裏付けるものだとNANOGrevは述べています。

ただし、今回発見されたデータが実際に背景重力波を示すものである統計的確実性は約3σだとのこと。物理学の世界では「背景重力波を発見した」と主張するためには5σを超えなければならず、NANOGrevはあくまでも「背景重力波の存在を示唆する証拠を得た」という主張にとどめています。


それでも、これまで不可能とされてきた背景重力波の存在証明に近づけたという部分は、科学的にも非常に大きな意味を持ちます。また、今回痕跡が検出された背景重力波は超大質量ブラックホールの連星から発生した可能性が高いそうですが、PTAで観測されるかもしれない低周波重力波には、宇宙のインフレーションによる急激な時空間の加速膨張によって生じた原始重力波が含まれている可能性もあります。LIGOのような重力波検出だけでなく、PTAによって重力波検出が実際に可能になれば、宇宙創生の秘密に迫ることもできるかもしれません。

なお、InPTAには熊本大学の研究チームも参加しており、以下のプレスリリースを発表しています。

ナノヘルツ重力波到来の証拠をつかんだ 〜超巨大ブラックホールの謎に挑む〜 | 熊本大学
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/sizen/20230629

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in サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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