サイエンス

宇宙に上下の概念はあるのか?


無重力を体験できる国際宇宙ステーション(ISS)では、宙に浮かびながら夕食を食べたり、空飛ぶスーパーヒーローの真似をしたりと、地球上では不可能なことも可能になります。重力がほとんど存在しない宇宙空間には上下があるのかについて、科学系メディアのLive Scienceが解説しています。

Is there an 'up' and a 'down' in space? | Live Science
https://www.livescience.com/space/is-there-an-up-and-a-down-in-space

地球上では、地球の中心に向かって重力による引力が働くため、上下は引力の方向に従って決定されます。また、地球の磁気に基づいて東西南北を定めることができ、地球上の任意の位置を緯度と経度を使った座標で表わすことが可能です。

一方、「宇宙空間は無重力空間なので、上下は存在しない」と考えられがちですが、シカゴ大学の核天体物理学者であるサンジャナ・カーティス氏によれば、ISSに滞在する宇宙飛行士も重力を体験するとのこと。高度約400kmに存在するISSは地球の周りをぐるぐると周回していますが、これは地球の重力とISSの周回によって発生する遠心力が釣り合っているため、安定した軌道で周回できています。つまり、ISSは一見無重力であっても地球の重力が存在するというわけです。そのため、少なくともISSの中については、上下の概念は存在するといえます。

by NASA's Marshall Space Flight Center

カーティス氏は「ISSに重力が存在するという事実は物理学で最もエキサイティングなことのひとつで、直感的ではなかったり知覚できなかったりするものを説明し、理解する枠組みがあるということです。『上下』は曖昧な言葉かもしれませんが、物理学ではいつもうまく機能する定義を考え出せるのです」と述べています。

そもそも重力とは何かについて、相対性理論で知られるアルベルト・アインシュタインは「時空という布のゆがみ」と表現しています。例えば、ピンと張ったベッドのシーツを想像します。このシーツの上にボウリングの球を置くと、その重さでシーツがへこみます。そして、このシーツの上にビー玉を置くと、ビー玉はシーツのへこみに向かって転がります。「重力によって引っ張られる」というのは、まさにボウリングの球のへこみにビー玉が転がっていくようなものといえます。


質量を持つ物体はすべて時空連続体をゆがませます。そして、物体の質量が大きければ大きいほど、時空連続体のゆがみは深くなり、重力が大きくなります。カーティス氏は「ISSでは、地球の重力に基づいて上下を定義できる」と説明しましたが、ISS以外の宇宙空間では、重力によって定義される上下の概念は通用しません。

例えば、ISSは地球に引っ張られていますが、同時に地球そのものは太陽の中心に向かって引き寄せられています。また、太陽系は銀河系の一部であり、銀河系は中心にある巨大なブラックホールに引き寄せられています。そして銀河系自体は他の銀河系に強く引っ張られています。宇宙と一口に言っても、どのレベルで見るかによって上下の基準を形作る重力源が異なります。


重力自体はアインシュタインの一般相対性理論などで説明はされているものの、現代の素粒子物理学理論とは相いれない点もあり、まだ解明されていないことも多く存在します。そのため、重力によって上下を定義するというやり方は、身の回りの空間を理解するのに役立つ一方で、基礎物理学の理解を妨げることもありえます。

フェルミ研究所の素粒子物理学者であるジェシカ・エスキヴェル氏は「私の仕事で最も難しいことの1つは、素粒子物理学と一般相対性理論のような二項対立の外側で考えようとすることです。上下も前後も過去も現在もない空間を想像することです。これは本当に困難ですが、この仕事の最も楽しい部分でもあります」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
宇宙服を着用せずに宇宙に出るとどうなってしまうのか? - GIGAZINE

1988年からずっと宇宙で何かが約22分ごとに光り続けている - GIGAZINE

「宇宙でのセックス」に宇宙旅行業界は対応できていないと研究者が指摘、10年以内に誰かが宇宙でセックスする可能性も - GIGAZINE

宇宙に長く滞在すると人間の脳に構造的な変化があらわれると判明 - GIGAZINE

ビッグバン直後から10億年ほどの初期宇宙の時間の流れは極端なスローモーション状態だった - GIGAZINE

超大質量ブラックホールが生み出す背景重力波の証拠をつかんだ「パルサー・タイミング・アレイ」とは何なのか? - GIGAZINE

宇宙の起源の痕跡かもしれない「背景重力波」の証拠を検出か、2023年6月30日に「重要な発表を行う」と研究組織が声明 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.