サイエンス

6つに割れた「シックスパックの腹筋」を手に入れるのはなぜ難しいのか?


「今年こそは夏までに6つに割れた腹筋を手に入れるぞ!」と意気込んだはいいものの、一生懸命筋トレしたのに腹筋が割れず落胆したという経験がある人もいるはず。一体なぜ6つに割れた腹筋を手に入れるのが難しいのかについて、イギリスのスウォンジー大学でスポーツと運動科学の上級講師を務めるリチャード・メトカーフ氏が解説しています。

Why six-pack abs are so hard to achieve – and maintain
https://theconversation.com/why-six-pack-abs-are-so-hard-to-achieve-and-maintain-207952


「6つに割れた腹筋」は筋肉質で健康的な体形の象徴ともいえる存在であり、筋トレやダイエットに目覚めてまず最初の目標となることもあります。しかし、実際のところ6つに割れた腹筋を手に入れるのは非常に困難なものであり、そうそう簡単に腹筋を割ることはできないそうです。

まず、腹筋を含む筋肉を付けるには筋肉の構成要素であるタンパク質を豊富に含んだ食事をとり、定期的にウェイトトレーニングを行って筋タンパク質合成を促進する必要があります。タンパク質を摂取すること自体も筋タンパク質合成を刺激することがわかっており、タンパク質を摂取する前にウェイトトレーニングを行うことで、さらに筋タンパク質合成の量と時間が長くなるとのこと。このタンパク質摂取とウェイトトレーニングの繰り返しによって、人間は腹筋を含む筋肉を成長させることができます。

筋タンパク質合成にウェイトトレーニングが及ぼす効果は運動後24~48時間で消えるため、筋タンパク質合成を促進し続けるには定期的なトレーニングが必要です。また、筋肉量が増加するのは運動を行った部位のみであるため、もし腹筋を鍛えたい場合は腹筋に効果的な負荷をかけるトレーニングを行わなくてはなりません。メトカーフ氏によると、十分なタンパク質摂取とウェイトトレーニングを継続していれば、数週間~数カ月ほどで筋肉のサイズが顕著に変わってくるとのこと。


しかし、単に腹筋を成長させるだけでなく、「シックスパックの腹筋が目に見えるようになる」ことが目的なのであれば、ウェイトトレーニングをするだけでは不十分だとメトカーフ氏は指摘しています。人間の皮膚と筋肉の間には皮下脂肪があるため、全体的な体脂肪率を下げて皮下脂肪を薄くしないと、たとえムキムキの腹筋があったとしても脂肪に隠れて見えないのです。

体脂肪を減らすには摂取カロリーを消費カロリーが上回る状態を作る必要があり、脂肪を十分に減らすには数週間~数カ月ほど消費カロリーが多い状態を継続する必要があります。さらに、腹筋が見えるほど体脂肪を少なくしたい場合は、平均を大幅に下回る体脂肪率でなくてはなりません。

典型的な体脂肪率は男性で11~20%、女性で16~30%ほどです。メトカーフ氏によると、腹筋を見せたいのであれば男性だと5~10%、女性だと8~15%とかなり低い体脂肪率をキープする必要があるとのこと。


つまり、他人が見てわかる「6つに割れた腹筋」を手に入れるには、トレーニングとタンパク質摂取による筋肉増強と、ダイエットによる体脂肪率減少を両立させなくてはなりません。これらのうち1つだけを達成するのもなかなか困難ですが、もし2つを同時にこなそうとすればその難易度はさらに上昇するとのこと。

2016年の研究では、タンパク質を十分に摂取しつつウェイトトレーニングを行い、カロリー消費量が摂取量を上回る状態を継続すれば、体脂肪率を減らしつつ筋肉を増やすことが可能だと示されています。しかし、これには週6日にわたりさまざまなウェイトトレーニングを行い、推奨されるタンパク質摂取量の3倍近いタンパク質を摂取する必要があります。

メトカーフ氏は、これらの習慣を維持するのは肉体的・心理的に困難なだけでなく、多くの時間も必要だと指摘。さらに、筋肉は時間と共に衰えていくため、たとえ友人との遊びや趣味の時間を減らしてまで6つに割れた腹筋を手に入れても、その後も維持するために適度なトレーニングとカロリー摂取量の調整を行わなくてはなりません。

また、エネルギーが不足した状態で運動を続けると「low energy availability」という状態に陥り、気分の落ち込みや感染症に対する抵抗力の低下、ケガや骨の健康不良リスクの増加、女性の生理不順といった心身への悪影響が現れるとのこと。そのため、もし6つに割れた腹筋を手に入れたいと思っても、無理をして自分の幸福を犠牲にすることは禁物です。


確かに、体脂肪や筋肉を良好なレベルに保つことは病気や加齢に伴う筋力低下のリスクを抑え、健康に暮らす上での利点があります。しかし、健康に暮らしたいだけであれば「6つに割れた腹筋」を手に入れられるほど極端な運動や食事制限は必要なく、1週間に合計150分程度のウォーキングやジョギングを行い、それにいくつかの筋肉トレーニングを組み合わせる程度で十分だとのこと。

メトカーフ氏は、「フィットネス関連の目標を設定する際に最も重要なことは、自分が楽しくて続けられそうなことだけをやるというものです。運動は続けてこそ健康に役立ちます。シックスパックへの挑戦を楽しむ人もいれば、より穏やかな運動で十分な人もいるのです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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