サイエンス

なぜ年を取ると声が変わってしまうのか?声質の変化を防ぐことはできるのか?


長年活動しているアーティストの最新アルバムとファーストアルバムを聞き比べた際、「ボーカルの声質がずいぶん変わったな」と驚いた経験がある人もいるはず。人間の声は声変わりや加齢によってどんどん変化していますが、「一体なぜ人間の声は年齢と共に変わっていくのか?」という疑問について、イギリス・ランカスター大学の解剖学教授であるアダム・テイラー氏が解説しています。

Why our voices change as we get older
https://theconversation.com/why-our-voices-change-as-we-get-older-208640


人間の声を作る声帯は、口から入ってくる空気や食物を食道と気管に仕分けている喉頭の上部に位置しています。声帯は、開閉するために必要な声帯筋と声帯靭帯(じんたい)、それらを覆って保護する粘膜という3つの主要部位で構成されており、肺から排出される空気が通過する際に声帯が振動することで声が生み出されます。

思春期前は声帯が発する声に男女差がそれほどありませんが、第二次性徴期に入ってホルモンバランスが変化すると、男女間で喉頭の長さが変化します。男性では思春期を過ぎると喉頭の長さが約16mm、女性では約10mmくらいになるほか、女性の場合は声帯が20~30%ほど薄くなるという変化も現れるとのこと。女性の声が男性よりも高いのは、男性と比較して声帯が短くて薄いためです。

また、思春期を過ぎた後もホルモンバランスが声に影響を及ぼす可能性があり、特に女性の場合は月経周期によって声の聞こえ方が異なることがわかっています。排卵期には粘液が多く分泌されて声帯がよく保護されるため、一般に排卵期の女性が最もいい声だとされています。

一方、月経前にはホルモンバランスの影響で声帯が硬くなり、うまく声が出ないことがあるとのこと。そのため、1960年代には一部のオペラハウスで、月経前期の女性歌手が歌うのを免除されたケースもありました。なお、避妊薬を服用している女性は排卵によるホルモンバランスの変動が少ないため、声質の変動も少ないという研究結果が報告されています。


声帯は外から見えないため、加齢と共に変化しているという実感を持っている人は少ないかもしれませんが、体の他の部位と同様に老化していきます。声帯を含む喉頭の軟骨は加齢と共にミネラルの含有量が増加して硬くなっていき、男性の場合は30代から声帯の柔軟性が低下し始める可能性があるとのこと。

軟骨だけでなく、声帯を動かすための筋肉も加齢と共に衰え、靱帯や周辺組織も柔軟性を失っていきます。さらに、声帯を保護する粘液を生成する分泌腺も減少するほか、肺活量の低下による空気排出量の減少も声質に影響を与える可能性があるとテイラー氏は指摘しました。こうした要因により、人間の声は加齢と共に変わっていくというわけです。


声帯はほとんどの人においてほぼ同じ割合で老化していくものの、特定のライフスタイルが声帯に損傷を及ぼすリスクを高め、結果として声質に変化をもたらす可能性もあります。たとえば喫煙やアルコールは喉の部分的な炎症を引き起こし、声帯を損傷させて声を変えてしまうケースがあります。また、喉頭炎の治療に用いられる吸入ステロイド薬や抗凝血剤、筋弛緩薬といった薬物の影響で声帯に損傷が起き、声が変わることがあるとのこと。

さらに、声を用いる職業である歌手や教師、フィットネスインストラクターなどは声帯に強い刺激が加わることで声帯ポリープを発症し、声や音域の変化が引き起こされることもあります。以上のように、人間の声が変わる要因はさまざまだとテイラー氏は指摘しています。


テイラー氏は、「加齢による声帯の変化はどうしようもありませんが、声帯を使い続けることで声質や機能を維持することができます。多くの歌手が歌わない人に比べて加齢による声の変化が著しく少ないのは、そのせいかもしれません。毎日大きな声で歌ったり朗読したりすれば、声帯の衰えを遅らせるのに十分な運動になります。声帯のケアも大切です。水分補給を怠らず、アルコールやタバコの摂取を控えることで、声帯の衰えや損傷を防ぐことができます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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