サイエンス

ネアンデルタール人などのタンパク質をAIで予測することで「絶滅した」抗生物質を復活


ペンシルベニア大学の生物工学者であるセザール・デ・ラ・フエンテ氏らが、現生人類のホモ・サピエンスと旧人類の絶滅種あるいは亜種と考えられているネアンデルタール人デニソワ人のタンパク質を、AIを用いて構造予測するという研究を行いました。分析の結果、病気の原因となる細菌を殺せる分子を特定しており、人間の感染症を治療するための新薬のヒントとなる可能性も示されています。

AI search of Neanderthal proteins resurrects ‘extinct’ antibiotics
https://www.nature.com/articles/d41586-023-02403-0


抗生物質の開発は過去数十年にわたって減速しており、現在処方されている抗生物質のほとんどは、30年以上前から販売されているものです。一方で、抗生物質に対する抵抗力が高い耐性菌が増加しているため、新しい治療法が求められています。

フエンテ氏ら研究チームは、絶滅種のタンパク質から抗生物質を開発するために、ヒトのタンパク質がペプチドによって切断される部位を認識できるように、AIアルゴリズムをトレーニングしました。このAIアルゴリズムをホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人のタンパク質配列に適用することで、新しいペプチドのどれが細菌を殺す可能性があるのかを予測しています。

AIを用いて細菌を殺す可能性のあるペプチドを予測し、これを実際にテストするのにかかる時間は数週間程度。一方で、従来の方法で単一の新しい抗生物質を発見するのにかかる時間は、3~6年と非常に長いです。


研究チームは実験用のシャーレの中で、数十種類のペプチドをテストしました。そして、6つの強力なペプチド(ホモ・サピエンス由来のペプチド:4種類、ネアンデルタール人由来のペプチド:1種類、デニソワ人由来のペプチド:1種類)を特定。そして、これらのペプチドをスーパー耐性菌のひとつであるアシネトバクター・バウマニに感染したマウスに投与しました。

6つのペプチドはすべて太ももの筋肉で増殖するアシネトバクター・バウマニの増殖を阻止しましたが、細菌を死滅させるものはありませんでした。また、6つ中5つのペプチドは、皮膚の膿瘍で増殖する細菌を殺したものの、大きな打撃を受けることも明らかになっています。

研究チームによると、最も成功を収めたペプチドを微調整すれば、より効果的なものを作成できる可能性があるそうです。また、AIアルゴリズムを変更することで、偽陽性を減らしたり、抗菌ペプチドの同定が改善されたりする可能性もある模様。そのため、フエンテ氏は「我々が使用したアルゴリズムは驚くべき分子を生成することはありませんでした。しかし、この概念とフレームワークは創薬について考えるための全く新しい手段となる可能性があります」と語りました。


スタンフォード大学の化学生物学者であるナサナエル・グレイ氏は、「アイデアは非常に興味深いものです」とコメント。しかし、AIアルゴリズムが既存の方法よりも高い成功率で臨床的に関連するペプチドを予測できるようになるまでは、創薬に大きな影響を与えることはないと言及しています。

フエンテ氏ら研究チームは、「古代のヒトゲノムに飛び込むことは非常に興味深く、潜在的に有用なアプローチであるとわかります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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