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AIが操縦する自律型ドローンが人間の世界チャンピオンにドローンレースで勝利


チューリッヒ大学とIntelの研究チームが、レース用ドローンの自動操縦AI「Swift」がドローンレースの世界チャンピオン3人とレースを行い、勝利を収めたと報告しています。ボードゲームやビデオゲームでAIが勝利した例はこれまでにもありましたが、研究チームは物理的なスポーツでAIが人間に勝利したのは今回が初めてだとしています。

Champion-level drone racing using deep reinforcement learning | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06419-4

High-speed AI Drone | | UZH
https://www.news.uzh.ch/en/articles/media/2023/Drone-race.html


今回AIと人間が対戦したのは、ドローンに搭載されたカメラの映像を専用ゴーグルで確認しながら規定のコースを飛ぶ「FPVドローンレース」です。研究チームによると、これまで自律型ドローンがレース用のコースを飛行するには外部の位置追跡システムを使ってドローンの軌道を正確に制御する必要があったため、人間が操縦するドローンのおよそ2倍も時間がかかっていたとのこと。しかし、今回世界チャンピオンに挑戦したAIのSwiftは、まるで人間が専用ゴーグルで確認するように、ドローンに搭載されたカメラで収集されたデータにリアルタイムで反応し、ドローンの速度や位置を把握してレースに対応します。

実際にAIが人間の世界チャンピオンとドローンレースで対戦する様子は以下のムービーで見ることができます。

Champion-level Drone Racing using Deep Reinforcement Learning (Nature, 2023) - YouTube


Swiftはドローンに搭載された慣性計測装置(IMU)とカメラで捉えた映像を分析します。


VIOは周囲の映像の流れから加速度や位置を把握します。


Gate Detectorは、ドローンレースのコースを構成するゲートを認識します。ドローンのレースでは規定の順番でゲートをくぐる必要があります。


コースクリアのスピードを競うドローンレースでは、ドローンの姿勢は状況に応じて大きく変わるため、完全に上下反転したままゲートをくぐったり、ドローンを90度傾けて急なターンを描きながらゲートをくぐったりする必要があります。そこで、Swiftはゲートの四隅を別個に認識し、自身のドローンの傾きを含めてゲートをくぐる姿勢や角度を調整します。


一連の解析結果はニューラルネットワークで処理され、Swiftは強化学習を行います。学習した結果はドローンの飛行にリアルタイムに反映され、その飛行中に得たデータが再びニューラルネットワークで処理されます。人間でいえば、実際にドローンを飛ばしながら徐々にコツをつかんでいくようなもの。


今回ドローンと対戦したのは以下の3人。いずれもチャンピオンの座を獲得したことのある猛者たちです。AIは1カ月間にわたる飛行シミュレーションを経て、人間と対戦します。


レースは2022年6月5日から13日まで、チューリッヒ近郊にあるデューベンドルフ空港の格納庫で行われました。レースでは25m×25mのエリアにおかれた7つの四角いゲートを正しい順序で通過します。ドローンの姿勢を反転させたり全速力でとんぼ返りさせたりと、高度なテクニックが要求されます。


Swiftと人間の差はすでにレースのスタート時に現れていました。Swiftは一切無駄がなく開始の合図と共に一気にドローンを加速し、わずか0.25秒ほどSwiftの方が早いスタートを切りました。


人間が操縦するドローンもさすがチャンピオンといったところで、スタート時につけられたわずかな差をキープしながらSwiftの操縦するドローンについていきます。


人間が操縦するドローンのカメラから見た映像。下の方に映っているのが、先行するSwift操縦のドローンです。


しかし、チャンピオンのドローンは追い超すことはできず、結果はSwiftが操縦するドローンの勝利。


Swiftはリアルタイムで位置や加速度を把握してコースを最適化します。その結果、チャンピオンの軌跡(赤)と比べると、Swiftの軌跡(青)の方がよりタイトにカーブを攻めることに成功しており、タイムの短縮につながっています。


ただし、研究チームは「人間のパイロットはSwiftよりも順応性が高かった」と論じています。人間のパイロットは新しいコースにもすぐ順応してドローンを飛ばすことができますが、Swiftは部屋の照明条件が変わるなど、訓練された時と異なる条件の時に失敗してしまうことがあったとのこと。

研究チームは、今回の研究結果の重要性はドローンレースにとどまらないと主張。「ドローンのバッテリー容量には限界があります。AIによってより速くより効率良く飛行することで、ドローンの有用性が高まります」と述べ、映画のアクションシーンの撮影や災害での人命救助、森林監視や宇宙探査など、多岐に渡る用途で自律用ドローンが役立つとしています。

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in ソフトウェア,   ハードウェア,   動画, Posted by log1i_yk

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