サイエンス

水道水よりも安く海水から飲用水を生成できる装置が完成


マサチューセッツ工科大学(MIT)と上海交通大学の技術者たちが、海水を取り込み、太陽光を動力源とする新しい淡水生成システムを考案しました。このシステムは既存のシステムよりも高い造水率と塩回収率が実現されています。

Desalination system could produce freshwater that is cheaper than tap water | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2023/desalination-system-could-produce-freshwater-cheaper-0927

今回研究チームが開発した淡水化装置は、以前の研究で設計された「ステージ」と呼ばれる複数の層で構成されるシステムを改良したものです。このシステムは太陽熱を利用して塩を水から分離することができるのですが、残った塩がすぐに結晶となって蓄積してしまい、数日後にはシステムが機能不全になるという問題がありました。これだと定期的にステージを交換する必要が生じるため、コストが大幅に増加してしまいます。


MITの研究者らは上記のシステムを改良し、新たに「対流」に着想を得た構造へと進化させました。

新しいシステムでは、内部が上下2層に分かれた薄い箱のようなステージが使われます。上半分の蒸発層に送られた海水は箱の天井に当たった太陽熱で蒸発し、水蒸気のみが下半分の凝縮層へと送られ、空冷により飲用可能な水へと変わります。上半分はチューブにつながっていて、外部から海水を取り込みます。

by Jintong Gao and Zhenyuan Xu

この構成では、水は自然にチューブを通って箱の中に押し上げられ、箱の傾きと太陽からの熱エネルギーが相まって、水が渦を巻いて流れるとのこと。これは塩分濃度の違いから生じる渦で、塩分濃度が高い水ほど下へ流れようとする性質を生かしています。小さな渦は塩の沈殿を防ぎ、循環を保ちながら水を蒸発層へ導くそうです。

研究チームは、1段、3段、10段のプロトタイプをいくつか作り、自然の海水や、自然の7倍の塩分濃度の水など、さまざまな水で性能をテストしました。その結果、既存のどの海水淡水化コンセプトよりも、高い造水率と塩回収率を実現したとのこと。

by Jintong Gao and Zhenyuan Xu

研究者たちは、このシステムを小型のスーツケースほどの大きさにスケールアップすれば、1時間あたり約4~6リットルの飲料水を製造でき、部品交換が必要になるまでに数年もつと見積もっています。この規模と性能であれば、水道水よりも安い価格で飲料水を製造できるとされています。

研究に携わったZhenyuan Xu氏は「この装置は耐用年数が長いという点が特徴です。太陽光で生成した飲料水を水道水よりも安くすることが初めて示された研究でもあり、より現実的な淡水化の可能性を開くものです」と指摘しました。今後、システムを数キロメートルのスケールに拡大することを目指すそうです。


なお、Xu氏らはかつて「制作費約500円の淡水化装置」を作ったことでも知られています。今回のシステムは、この装置をさらに改良したものでした。

たった500円で作れる「太陽光だけで海水から飲み水を作る装置」の仕組みとは? - GIGAZINE

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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