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「森林が二酸化炭素を吸収してくれる時代は終わった」と専門家、気候変動により森は二酸化炭素の吸収源から排出源に


日本には国土の3分の2に相当する約2500万ヘクタールの森林がありますが、世界で3番目の森林面積を誇るカナダはさらに多く、なんと約3.47億ヘクタールもの広大な森林があります。そんなカナダの人々の間では「広大な森林が二酸化炭素の排出を相殺してくれる」という常識が信じられていますが、気候変動により二酸化炭素を吸収するという森林の機能に転換点が訪れているとのデータが報告されました。

Our forests have reached a tipping point | Canada's National Observer: News & Analysis
https://www.nationalobserver.com/2023/08/21/analysis/our-forests-have-reached-tipping-point

森林火災が多発しているカナダでは、2023年の二酸化炭素の排出量が例年の2倍になると予想されていますが、実はカナダでは約20年から二酸化炭素の排出量が急激に増加し続けてきました。

以下の図は、カナダ政府の発表と欧州連合の地球観測プログラムのデータを元に作成された、1990年から2023年までにカナダの森林が大気中に放出した二酸化炭素の総量を表したグラフです。2000年ごろまで森林は二酸化炭素を吸収していましたが、2001年ごろに吸収から排出に転じ、以降排出量が急増してることがわかります。


なお、カナダ政府は森林全体の3分の2にあたる「管理された森林」からの排出量しか集計していないため、残りの3分の1のデータは上図には含まれていません。

転換点となった2001年以降、カナダでは22年連続で吸収量を排出量が上回る事態が続いており、特に2010年以降の10年間では年間平均175MtCO2(メガトンCO2)もの二酸化炭素が大気中に放出されました。


カナダのニュースメディア・Canada's National Observerによると、この二酸化炭素の増加量を相殺するにはカナダに存在するあらゆるガソリン車をストップさせ、全ての家庭で天然ガスを使うのをやめても足りないとのこと。

このことから、Canada's National Observerの気候アナリストであるバリー・サキシフリッジ氏は「カナダには、広大な森林が化石燃料の排出量の一部を相殺しているという、気分のいい神話があります。確かに、数十年前の気候が安定していた時代にはそうだったかもしれません。しかし、私たちが数十年にもわたる伐採と化石燃料による気候変動によって森林を弱体化させたので、森林は二酸化炭素を吸収する代わりに排出するようになってしまいました」と述べました。


問題はすでに大気中に放出された二酸化炭素だけではありません。数億ヘクタールある広大な土地には何十億本もの木々が生い茂っており、カナダ天然資源省によると、地上部分のバイオマスだけでも6万MtCO2の二酸化炭素を生成するのに十分な炭素が貯蔵されているとのこと。根や土壌にも同程度の炭素が含まれているため、カナダの森には10万MtCO2に匹敵する炭素が保持されていることになります。

以下は、森林が貯蔵している炭素の量とこれまで放出された二酸化炭素を可視化した図です。水面下の巨大な塊として描かれている10万MtCO2の炭素と比べると、2001年以降に大気中に放出された約3700MtCO2の炭素が氷山の一角に過ぎないことが直感的にわかります。


炭素を貯蔵する森林の働きは、人類に豊かな実りやエネルギーをもたらす自然の贈り物として機能してきましたが、二酸化炭素を放出するようになったことで、今後は「炭素貯蔵庫」ではなく「炭素爆弾」として自然環境や人類を脅かすおそれがあります。

このように、森林が炭素の吸収源から排出源に転じた原因は、気候アナリストのサキシフリッジ氏が指摘した通り、伐採と気候変動であると考えられています。

以下は、カナダの管理された森林による二酸化炭素の増減を、森林内(緑色の棒)と森林外(茶色の棒)で分けた図です。1990年代には、森林の成長により吸収された二酸化炭素が伐採により発生した分と釣り合っており、ほぼカーボンニュートラルが達成されていました。しかし、2000年代には排出量が吸収量を上回るようになり、2010年代以降は伐採による排出量増加に加えて山火事や凍土の融解などで森林の内外から大量の二酸化炭素が発生するようになりました。


Canada's National Observerはカナダの現状について警鐘を鳴らしましたが、2021年にはアマゾンの熱帯雨林でも二酸化炭素の排出量が吸収量を上回ったことが報告されており、気候変動により植物の光合成が停止しさらに二酸化炭素が増加する悪循環を防ぐための世界的な取り組みが一層強く求められています。

ついに気候変動でアマゾン熱帯雨林の二酸化炭素排出量が吸収量を上回る - GIGAZINE

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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