サイエンス

太極拳でパーキンソン病の症状を緩和できる可能性


中国武術の一派であり呼吸に集中してゆっくり動くことが特徴の太極拳は、足腰の筋肉を鍛えてバランス感覚を養うため転倒防止につながるとして高齢者に人気です。そんな太極拳が、手足の震えや歩行障害を示すパーキンソン病の症状を和らげる可能性があると中国の研究チームが報告しました。

Effect of long-term Tai Chi training on Parkinson’s disease: a 3.5-year follow-up cohort study | Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
https://jnnp.bmj.com/content/early/2023/09/27/jnnp-2022-330967


Parkinson's disease: tai chi may help manage symptoms – new research
https://theconversation.com/parkinsons-disease-tai-chi-may-help-manage-symptoms-new-research-216376

太極拳にはバランスの改善心血管疾患のリスク軽減不安の軽減といった多くの健康上の利点をもたらすことが知られています。また、パーキンソン病の症状を和らげる効果があることも報告されていますが、過去の研究は短期的なものであり、太極拳がパーキンソン病の症状にもたらす長期的な効果についてはわかっていませんでした。

そこで中国の研究チームは、遺伝性ではない孤発性パーキンソン病の患者を募集し、そこから太極拳のクラスを受講できない健康問題を抱える患者を除外した、合計330人の患者を対象にした研究を行いました。被験者の平均年齢は66歳であり、いずれも参加時点でパーキンソン病の初期段階だったとのこと。このうち143人が太極拳のトレーニングを受講する実験群に、残り187人が太極拳をやらない対照群に割り当てられました。

実験群の患者たちは2016年~2018年にかけて5つの太極拳のクラスを受講し、週2回1時間の太極拳トレーニングを行うように指示されました。その後、研究チームはすべての被験者を2019年~2021年にかけて追跡し、パーキンソン病の症状について評価したとのことです。


実験の結果、太極拳を行った実験群の患者は対照群と比較して、研究終了時点でより良好な運動機能を維持していました。一方、対照群では歩行能力やバランス感覚といった運動機能の低下が早く、研究過程でパーキンソン病の症状を抑えるためにより多くの薬を服用する必要があったとのこと。これは、対照群の方がパーキンソン病の症状進行が早かったか、太極拳が症状の進行を抑える効果があったことを示唆しています。

また、太極拳を実践した患者たちは生活の質・幸福度・睡眠・記憶・思考といったさまざまな点でも、対照群の患者よりも良好だったことが報告されました。


パーキンソン病の治療薬はあくまで日常生活の動作を改善したり、予後を延長したりするためのものであり、根本的な治療法はありません。そのため、太極拳のような身近で効果的な運動療法を取り入れることが、患者にとって有益な可能性があるとのことです。

しかし、今回の研究ではグループが無作為化されておらず、実験群と対照群は運動への動機付けやその他のライフスタイルが異なっている可能性があります。そのため、研究チームは今後の大規模なフォローアップ調査において、バイアスを防ぐために無作為化を行うことを推奨しています。

記事作成時点では、太極拳がパーキンソン病の症状を和らげる正確なメカニズムもわかっていませんが、運動不足は体内の炎症を促進することが示唆されており、慢性炎症は脳内のニューロン喪失につながる可能性があるとのこと。太極拳をする人は血液中に抗炎症マーカーを持っていることが示されており、この炎症軽減効果がパーキンソン病の症状を和らげる可能性があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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