サイエンス

「前足が小さすぎて役に立たなかった」などティラノサウルスに関する5つの誤解


ティラノサウルスは恐竜の代表格としてよく知られていますが、2023年には唇があった可能性が報告されるなど、その姿形や生態に関する常識は新しい発見によって常に塗り替えられ続けています。そんなティラノサウルスに関するよくある誤解を、イギリス・サウサンプトン大学で恐竜を研究しているアビ・クレイン氏が5つまとめました。

Five things you probably have wrong about the T rex
https://theconversation.com/five-things-you-probably-have-wrong-about-the-t-rex-220011

◆誤解1:ティラノサウルスは目が悪かった
映画「ジュラシック・パーク」などでは、ティラノサウルスの目が悪いかのような描写があります。しかし、ティラノサウルスはグレープフルーツほどのサイズの巨大な眼球を持っているため、ハヤブサの5倍、人間の13倍の精度でものを見ることが可能だったと考えられています。

また色覚にも優れており、鳥やワニと同様にティラノサウルスも人間より多くの色を見分け、さらには紫外線も見ることができました。そのため、じっと息を潜めてティラノサウルスをやりすごすような映画のシーンとは異なり、動きを止めた程度ではティラノサウルスの目をごまかすことは不可能だったというのが科学者の見解です。


◆誤解2:ニワトリはティラノサウルスの直系の子孫である
ニワトリを見ると、発達した脚部やうろこ状の肌など恐竜に似た特徴があるので、そこにティラノサウルスとの共通点を感じる人もいるかもしれません。実際のところ、この誤解はまったくの見当外れというわけでもなく、事実としてすべての鳥類はヴェロキラプトルのような小型肉食恐竜の近縁の系統に属していると考えられています。

「つまり、鳥類は恐竜の子孫であるだけでなく、ある意味で恐竜そのものでもあるわけです」とクレイン氏は述べていますが、ニワトリがティラノサウルスから直接進化したというのは誤りです。


始祖鳥のような初期の鳥類は、現生する鳥に似た翼と先祖譲りの歯や長い尾を併せ持っており、その出現はティラノサウルスが進化するより何百万年も早いジュラ紀のことでした。

また、ケンブリッジ大学の研究者らは、2020年に発表した研究で、現代のアヒルやニワトリの祖先はウズラほどの大きさの恐竜「アステリオルニス」であると特定しました。ティラノサウルスの時代にも生息していたアステリオルニスは、ティラノサウルスを滅ぼした大量絶滅を生き延び、その後ニワトリを含む鳥類へと進化していったと考えられています。

こうした知見からクレイン氏は、「ティラノサウルスは現代のニワトリの先祖というより、あらゆる鳥類にとっての特大のいとこなのです」と指摘しました。

◆誤解3:ティラノサウルスの腕は小さすぎて役に立たなかった
ティラノサウルスのイラストの中には、手のひらを下向きに描いているものがありますが、実際には手のひらを下向きにすることはできず、ちょうど人間が拍手するように手を向かい合わせていたと考えられています。


骨の化石から筋肉を復元する研究によると、ティラノサウルスの腕は大きさの割に力が強く、可動域もそれなりにあったとのこと。そのため、ティラノサウルスの腕はさまざまな場面で活躍していたと考えられています。

これまでのところ、恐竜学者が考えている最も妥当な使い道は、獲物をつかんだり切り裂いたりすることと、ティラノサウルス同士のコミュニケーションです。

ティラノサウルスの腕の長さは約1メートルで、人間の腕よりは大きいものの、13メートルの巨体に比べれば確かに小さめです。これは大型の獣脚類に共通の傾向で、例えば体長8メートルのカルノタサウルスの腕は50センチほどしかなく、その復元図は「上腕から指が生えているように見える」と形容されるほどでした。

by Fred Wierum

◆誤解4:ティラノサウルスとステゴサウルスは同じ時代を生きていた
ステゴサウルスもティラノサウルスと同じく知名度が高い恐竜なので、恐竜をモチーフにした人形やお菓子などにはティラノサウルスとステゴサウルスがセットになっているものもあります。

しかし、恐竜の時代は多くの人がイメージするより長いもので、ティラノサウルスが生きた時代は今から約6600万年前の白亜紀の末期、つまり恐竜を絶滅させたと考えられている小惑星の衝突の直前まででした。これに対し、ステゴサウルスやディプロドクスなどジュラ紀の人気恐竜が生息していたのは、今から約1億5000万年前の時代です。従って、ティラノサウルスが大地をのし歩いていたころには、ステゴサウルスは既にその足元で化石になっていたことになります。

by Sheila Sund

◆誤解5:ティラノサウルスにはうろこがあった
恐竜に羽毛があったかもしれないという説は、古生物学の間で論争の種になっており、例えばティラノサウルスの親戚である体長9メートルのユウティラヌスは、もこもことした羽毛で覆われた状態の化石が見つかっています。

では、ティラノサウルスも羽毛でふさふさだったかというと、そうとも言い切れないとのこと。なぜなら、巨大かつ温血動物だったティラノサウルスが羽毛で覆われていると、体温が高くなりすぎてオーバーヒートするおそれがあるからです。

また、ティラノサウルスの体の各所で、うろこのように見える外皮の化石が見つかっています。そのため、クレイン氏は「確かなことはわかりませんが、おそらく実際のティラノサウルスは羽毛に覆われた姿とうろこに覆われた姿の中間だったのでしょう」と予想しました。


恐竜の体色の研究は古生物学の中でも最先端の分野のひとつで、研究者らは化石から羽毛やうろこの細胞内にある色素を含んだカプセルを取り出し、分析することで恐竜の色や模様を特定することに挑戦しています。まだティラノサウルスが何色だったかはわかりませんが、恐竜には赤や虹色、黒などさまざまな色や模様があることがわかっているとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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