サイエンス

月が冷えて収縮することで発生する「月震」がアルテミス計画や月面コロニー建設に悪影響を及ぼす可能性

by NASA Goddard Space Flight Center

現在の月では地球のように活発な火山活動やプレートの移動は起きていませんが、表面の収縮による地殻変動で月震が発生することが知られています。新たな研究では、月の南極付近には大規模な月震を引き起こす断層があり、NASAの有人月面探査ミッションであるアルテミス計画や月面コロニー建設に影響する可能性が示されました。

Tectonics and Seismicity of the Lunar South Polar Region - IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ad1332


The Moon is Shrinking, Causing Landslides and Instability in Lunar South Pole | College of Computer, Mathematical, and Natural Sciences | University of Maryland
https://cmns.umd.edu/news-events/news/Nicholas-Schmerr-moon-shrinking-causing-landslides-and-instability-lunar-south-pole

Our shrinking moon could cause moonquakes near Artemis astronauts' landing site, scientists warn | Space
https://www.space.com/shrinking-moon-artemis-astronauts-landing-site

月の内部は過去数億年の間に冷え込んでおり、そのせいで「乾燥したレーズン」のように表面にしわが寄って収縮しているとのこと。ブドウであればしなやかな皮がしわを形成しますが、月の表面はもろいために断層が形成され、この断層が月震などの地殻変動を引き起こすことがわかっています。


1970年代のアポロ計画では、月に設置された地震計による月震観測が長期的に行われ、8年以上にわたる観測期間中に1万2558回もの月震が観測されました。月震は揺れのピークに達するまでの時間が長く、時には数十分~数時間も揺れ続けることがあるほか、中には地球で換算するとマグニチュード5に達する月震もあったとのこと。

アポロの地震計が観測した最も強い月震は、1973年3月13日に南極方面で発生したものです。NASAやスミソニアン協会などの研究チームはこの地震を、まばらな地震ネットワークに特化した再配置アルゴリズムを使用して震源地を予測しました。その結果、NASAがアルテミス計画の着陸候補地に選定している南極付近は、大規模な月震が起きる可能性が高いことがわかりました。

以下の図は、アルゴリズムが予測した震源候補地を濃いピンク色で示したもので、薄い青色のボックスで示された部分がアルテミス計画の着陸候補地です。月の南極付近は氷などの資源が豊富だとみられており、魅力的な探査対象となっていますが、強い月震による揺れやそれに伴って発生する地滑りが宇宙飛行士らに危険を及ぼす可能性もあります。実際に、氷が埋蔵されていると期待されているシャクルトンクレーターの壁は、地滑りに対して脆弱(ぜいじゃく)であることが研究チームのモデルによって示唆されています。


論文の共著者でメリーランド大学の地質学准教授であるニコラス・シュマー氏は、「月の表面は乾燥した砂利やチリが散らばっている状態だと考えることができます。数十億年にわたり、月の表面には小惑星や彗星(すいせい)が衝突し、その結果生じた破片が絶えず放出されてきました。こうしてできた表面の材料はミクロンサイズから岩石サイズまでさまざまですが、すべてが非常に緩やかに結合されています。このように土砂が緩んでいると、揺れや土砂崩れが起きる可能性が非常に高いのです」と指摘しています。

研究チームは月震活動の地図作成を続けており、人間の探査にとって危険な地域をさらに詳細に特定することを目指しています。月面の危険地域を知ることは、長期的な月面探査活動を安全に進める上で重要であり、基地やコロニーの建設候補地を絞り込む上でも役立ちます。

シュマー氏は、「有人のアルテミス計画の打ち上げ日が近づく中で、宇宙飛行士や機器、インフラを可能な限り安全に保つことが重要です。この研究は、月震活動に耐えられるような構造物を設計することや、本当に危険なゾーンから人々を守ることなど、月で待ち受けていることに備える助けになります」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
月に「水を貯蔵するガラス球」が存在することが判明、月全体で2700億トンもの水が貯蔵されている可能性も - GIGAZINE

月の裏側に「熱を放出する巨大な岩の塊」が存在することが判明、かつての火山活動の名残か - GIGAZINE

失われたはずの月面探査データが月面で発生した謎の温度上昇現象を解決する鍵となる - GIGAZINE

「月の溶岩洞」が月面基地の建設に最適なスポットかもしれない - GIGAZINE

人類が月面の環境を変える時代が来たことで月の新たな地質学的時代「月人新世」に突入したと研究者が主張 - GIGAZINE

NASAが月面探査ミッション「アルテミス計画」の有人月面着陸を1年延期し2026年9月に実施へ、理由は「安全のため」 - GIGAZINE

日本の月着陸実証機「SLIM」が世界で5カ国目の月面着陸に成功 - GIGAZINE

月面着陸に成功した「SLIM」はミッションの主目的を果たして「満点」評価も着陸姿勢が話題に - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.