サイエンス

東京大学のチームが反物質でできたエキゾチック原子「ポジトロニウム」を絶対零度近くまで冷却することに成功


レーザー光を使って物体の温度を下げる技術により、反粒子でできたエキゾチック原子であるポジトロニウムを冷却することに成功したとの研究結果を、東京大学と欧州原子核研究機構(CERN)の研究チームが相次いで発表しました。反物質系の速度を落としてより詳細に研究できるようになるこの成果は、宇宙の始まりに関する壮大な探究から、ミクロの世界を明らかにする量子力学まで、幅広い分野の研究に役立つ可能性があると期待されています。

[2310.08761] Laser cooling of positronium
https://arxiv.org/abs/2310.08761

Phys. Rev. Lett. 132, 083402 (2024) - Positronium Laser Cooling via the 13S−23P Transition with a Broadband Laser Pulse
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.083402

AEgIS experiment paves the way for new set of antimatter studies by laser-cooling positronium | CERN
https://home.cern/news/news/experiments/aegis-experiment-paves-way-new-set-antimatter-studies-laser-cooling

Breakthrough: Positronium Cooled By Laser in a World First : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/breakthrough-physicists-cooled-antimatter-to-near-absolute-zero-for-the-first-time

ポジトロニウムとは、負の電荷を持つ電子とその反対の陽電子でできた原子のことです。また、ポジトロニウムと反陽子がぶつかると、ポジトロニウムの陽電子と反陽子が結びついて反水素が生成されます。


そのため、ポジトロニウムは反物質の性質を調べる実験に最適ですが、非常に不安定なのでわずか1420億分の1秒で消滅してガンマ線になってしまいます。しかも、粒子の雲の中で生成されたポジトロニウムはさまざま速度で飛び回るので、位置を特定するのも困難です。

この問題の解決策のひとつが、レーザーで粒子の運動量を減らして温度を下げるレーザー冷却技術です。粒子にレーザーを当てると、光子が吸収されてエネルギーが加わりますが、その後放出されてエネルギーが減少します。これを繰り返す過程で、通常では到達不可能な速度まで粒子を減速させる技術により、対象の特性をより正確に捉えることができるようになります。

今回、CERNで行われているAEgIS実験の研究チームは、幅広い速度分布をターゲットとする広帯域レーザー冷却を使い、ポジトロニウムの温度を380ケルビン(約106度)から170ケルビン(マイナス約103度)まで下げることに成功しました。研究チームは今後、10ケルビンの壁を突破することを目指す予定です。

by CERN - Politecnico di Milano

さらに、東京大学の周健治氏らの研究チームは、粒子の速度に合わせてレーザーの周波数を調整する「チャープ冷却」と呼ばれるレーザー冷却技術を使って、ポジトロニウムの温度を絶対零度である0ケルビン(マイナス273.15度)に肉薄する約1ケルビン(マイナス約272度)まで下げて、電子と陽電子の全体的な速度と分布を大幅に縮小させました。

両チームの研究は独立していますが、今回のポジトロニウムのレーザー冷却に関する成果を共有しており、AEgISのチームはアメリカ物理学会が刊行する査読付き科学雑誌・Physical Review Lettersに、東京大学の研究チームはプレプリントサーバー・arXivに同日に論文を投稿しました。

反物質には多くの可能性が秘められていますが、その中には宇宙の成り立ちに関する謎もあります。ビッグバンとともに宇宙が形成された時、宇宙には通常の物質と反物質が同じだけ作られたはずですが、現在の宇宙はほとんどが物質でできています。今回確立された冷却技術により、反物質の振る舞いを詳細に知ることができれば、消えた反物質の行方を追究する上で大きな手がかりになるかもしれません。


科学者たちはまた、ポジトロニウムのボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)を作りたいとも考えています。ボース・アインシュタイン凝縮とは、粒子の雲の温度を絶対零度ギリギリまで冷やすと、1つの巨大な素粒子のようになる現象のこと。ポジトロニウムのBECは、物質と反物質の消滅を介してコヒーレントなガンマ線を放出しますが、これは原子の基本的な構造を解明する上で非常に強力なツールとなります。

CERNのAEgIS広報担当者であるルッジェロ・カラヴィータ氏は、「反物質のBECで、研究者が原子核をのぞき込むことを可能とするコヒーレントなガンマ線光を生成することが可能になれば、基礎研究と応用研究の両方にとって素晴らしいツールとなるでしょう」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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