冬のある日、カナダのハドソン湾沿いで、わたしたち5人は特別製の車に乗ってツンドラを走りながら、ホッキョクグマを探していた。窓の外は吹き荒れる吹雪でほぼ何も見えない。その様子は、仲間のひとりの表現を借りれば、まるで白いピンポン玉の中を走っているかのようだ。
そのとき、われらが「ツンドラ専用車」のヒーターが故障し、何度復活を試みても、うんともすんとも言わなくなる。外の吹雪からわたしたちを守っているものは、薄いガラスと金属の層だけだ。
太陽が沈んでいく。寒い。
それでも、安全は保証されている。わたしたちがいる場所は暖かい宿からそう遠くないし、帰り着くまでには多少は寒さが堪えるだろうが、問題はない。それぞれが、着込んでいる防寒パーカーにしっかりと頭をうずめる。ワインがひと瓶と、ウイスキーもある。自分たちが追い込まれたこの状況について、お互いにややヒステリー気味の冗談を飛ばし合う。
寒くはあるが、誰もが幸せで、調子は上々だ。
凍った北極海を砕氷船で走ったこと。南極の嵐に立ち向かったこと。アラスカの小屋で暮らしたこと。北極点に立ったこと。極地の取材を重ね、本も書いたジャーナリストであるわたしにとって、人生の重要な出来事には、寒さとの戦いが欠かせないと言っても過言ではない。そうした場所や環境こそ、ここが自分の居場所だとわたしに感じさせる。わたしは好きこのんでそこで暮らし、そうした場所に行きたいと憧れ、何度も繰り返し酷寒の地を訪ねていく。(参考記事:「 無支援単独で南極横断に成功、世界初」)