黒いネコ科動物は、迷信や漫画の題材になるなど、昔から私たちの好奇心をかき立ててきた。実際には、彼らはそれほど珍しい存在ではない。メラニン色素が過剰につくられて全身が黒くなるメラニズム(黒色素過多症)を引き起こす遺伝子は、35種以上いる野生のネコ科動物のうち、ジャガー、ヒョウ、ボブキャットを含め、少なくとも14種で確認されている。黒い毛皮の野生ネコをひとまとめに「ブラックパンサー」と呼ぶこともある。(参考記事:「黒いサーバルの撮影に成功、小型野生ネコ、ケニア」)
野生ネコの間でメラニズムが淘汰されずに受け継がれているのは、体の黒さが保護色となることや体温調節などの点で有利だからだと考えられてきた。(参考記事:「超レアな黒いフラミンゴ、キプロス島で見つかる」)
しかし、12月18日付けで学術誌「PLOS ONE」に発表された論文によると、野生ネコのメラニズムに欠点が見つかったようだ。コミュニケーションの妨げになるという。多くの種の野生ネコには、耳の裏と尾の先端に白い部分があり、これを使って重要な情報を仲間に伝えている。だがメラニズムの個体には、この白い部分がない。
今回の研究では、ブラジル、サンタカタリーナ連邦大学の生態学者マウリシオ・グライペル氏らのチームが、メラニズムとコミュニケーションの関連性をモデル化し検討した。その結果、黒い色は夜間の保護色として優れている一方で、白い模様がないのはコミュニケーションの点で不利であり、メラニズムが進化上のジレンマになっていることが示唆された。
結局のところメラニズムは長所なのか? それとも短所なのか? 明確な答えはない。進化にはこうしたトレードオフがつきものだが、今回の研究では説得力のある考察がなされていると、群れの持続可能性について研究する米サンディエゴ動物園の科学者ニコラス・ピルフォールド氏は言う。同氏はアフリカのクロヒョウに関する論文を2019年1月に発表している。(参考記事:「【動画】アフリカでクロヒョウを確認、100年ぶり」)
「特徴の利点ばかりが注目され、欠点が無視されがちです」とピルフォールド氏は話す。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。「今回の研究の強みは、メラニズムの欠点がネコ科動物の行動にどう影響しうるかや、どのような条件下ならメラニズムが受け継がれやすいのかについて検討していることです」(参考記事:「水玉模様のシマウマが見つかる、偽メラニズムか」)
さらに、メラニズムのネコ科動物について理解が深まることで、保護に役立つ可能性もある。その多くは、生息地の喪失と密猟のせいで数が減っている。国際自然保護連合(IUCN)は、少なくとも18種の野生ネコを絶滅危惧種または危急種に指定している。