南極の氷が失われるのに伴い、生息地を失いつつあるコウテイペンギン。写真家がペンギンたちの過酷な越冬を記録した。
最初は黒い点が一つ遠くに見えるだけだった。点は徐々に増え、白い氷原をくねくねと横切る何本もの線となった。
「そして突然、最初の鳴き声が響きます」と写真家のシュテファン・クリストマンは話す。そのとき、「ああ、帰ってきた」と実感するのだという。
3月下旬、南極のアトカ湾で、クリストマンは2カ月以上も前から、コウテイペンギンたちが来るのを待っていた。体高およそ100センチ、体重40キロほどになるコウテイペンギンは、ペンギンのなかで最大の種だ。
クリストマンはこれから、アトカ湾のコロニーにいる約1万羽のペンギンとともに冬を過ごす。5年前にも一度、同じ場所で越冬しているが、コウテイペンギンの繁殖サイクルの記録を完成させるために戻ってきた。ここまでする動物写真家はめったにいない。冬の南極では気温が氷点下45℃を下回り、ふぶけば1メートル先も見えない。とりわけ寒さの厳しい7、8月ともなれば、並の覚悟で滞在できる場所ではないのだ。
「正直言うと、しばらくすると慣れるものですよ」とクリストマンは事もなげに言う。
だがコウテイペンギンには、容易に慣れることのできない現実がある。海氷の減少、あるいは消滅の可能性だ。海氷はペンギンの繁殖の場であり、周辺の海で狩りをするための拠点でもある。ペンギンは、泳ぎは達者だが、子育ては海中ではなく、安定した海氷の上でなければできない。それも春が来て、氷が解け始めるまでの間だ。
南極周辺には約25万6000組のつがいが、54カ所のコロニーを形成している。南極の海氷域はもともと面積の増減が極めて大きいが、2019年に発表された研究によると、5年前から急激な減少が始まり、17年に記録的な縮小が見られた。
現在は回復しているようだが、それでも長期的な平均値を下回る状況が続いている。気候モデルによれば、気候変動に対して早急に手を打たない限り、今世紀の終わりまで大幅な減少が続くと予測されている。
「このままでは、コウテイペンギンは絶滅に向かって進むことになります」と、米ウッズホール海洋研究所で海鳥を研究するステファニー・ジュヌブリエは語る。
彼女たちの研究では、炭素排出量が抑制されなければ、2100年までにコウテイペンギンのコロニーの8割が消滅する可能性があり、種の存続は厳しくなるとみられる。予測では、その頃の地球の平均気温は、3〜5℃上昇している。
だがジュヌブリエによると、その上昇を1.5℃までに抑えられれば、失われるコロニーは2割近くにとどまるという。また、海氷の状態がほかの場所より良好なロス海やウェッデル海がコウテイペンギンの避難所となれば、その周辺では個体数が微増する可能性もあるという。