2019年6月のある晴れた土曜日、56歳のブレント・バウアー氏は、米国シアトル沖サンファン島にある別荘の屋根に上って掃除をしていた。手の届かないところを洗おうと水圧洗浄機のスイッチを入れた瞬間のこと。勢いよく飛び出した水の反動で、バウアー氏はバランスを崩し、屋根からすべり落ちた。
コンクリートの地面までおよそ25フィート(7.6メートル)。激突するまでの間、バウアー氏の頭には「もうおしまいだ」と「これではバカみたいだ」という二つの思いが浮かんだという。
2020年の2月、自宅のキッチンで事故の話をするバウアー氏は、かすかに悔しさをにじませながらも、ごく落ち着いた様子だった。それでも、あの日のことを思い出すとぞっとするとバウアー氏は言う。「わたしは奇跡的にも空中で体を回転させ、足から着地することができました。そうでなければ死んでいたでしょう」
最初に着地した左のかかとは16個の破片に砕け、次に着地した右のかかとも粉々になった。次にバウアー氏は骨盤を打ち、これは3つにわかれて、太い血管を引き裂いた。続いて体重がかかった手首は折れて、尺骨が前腕から3.8センチ突き出した。(参考記事:「自分の腕を切り落として窮地を脱出した男」)
ヘリコプターでシアトルのハーバービュー医療センターに運ばれたとき、バウアー氏は内臓の損傷がひどく、何カ所も粉砕骨折をしており、手術の回数は最終的に10回におよんだ。医療チームは、バウアー氏の出血を抑え、内臓を守り、折れた骨を安定させるために、誘導による昏睡状態を2日間維持した。
悲劇から回復にいたるまで、バウアー氏が経験したのは骨を修復するための繊細な外科技術、および治療に伴う激しい痛みの管理といった、革新的な治療だった。
かかとの治療
バウアー氏は、自らが所有する通信会社で働くかたわら、ロッククライミングやパラグライダーに取り組んできた。それらは彼にとって単なる娯楽ではない。バウアー氏は限界に挑戦せずにはいられないたちで、たとえば2005年には、ジンバブエのサファリでワニの写真を撮るために登った木から落下して、大けがを負っている。
「これまでの人生で何度も幸運に恵まれてきたために、本当に深刻なことは自分には起こらないという間違った思い込みがありました」と、バウアー氏は言う。
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