解析技術の飛躍的な進歩と化石の発掘ラッシュで、恐竜研究の最前線では今、新発見が相次いでいる。皮膚や羽毛の色から子育ての方法、生態や進化の道筋まで、恐竜像が大きく塗り替えられようとしている。
肌寒い1月の午後、英国ロンドン市内の水辺にたたずみ、恐竜の群れを見つめる女性がいた。
彼女はロンドン自然史博物館の学芸員、スザンナ・メイドメントだ。この日、私と一緒にクリスタル・パレス公園を訪れていた。この公園には1854年に、公共施設としては世界で初めて恐竜の復元模型が設置された。模型は公開と同時に大きな反響を呼び、今も続く恐竜ブームに火をつけた。映画『ジュラシック・パーク』の公開より1世紀以上も前に、この公園の恐竜たちは30年連続で年間200万人もの見学者を集めていたのだ。
166年前に設置された模型をつぶさに見るために、私たちはNPO「クリスタル・パレス恐竜友の会」の理事エリノア・ミシェルとサラ・ジェイン・スローターの案内で、金属製のゲートを通り、水辺に向かった。そこで釣り用のゴム長を履くと、池に浮かぶ島を目指した。私は一歩目で足を踏み外して転び、悪臭を放つ水でずぶぬれになって、やっとの思いで島に上陸した。「恐竜の島にようこそ!」 スローターがにっこり笑って言った。
シダとふかふかのコケに覆われた島にある、淡い緑色の恐竜たちはなかなかの迫力で、威厳さえも感じられる。
白亜紀の植物食恐竜イグアノドンの2体の模型は、鼻先に角が生えた巨大なイグアナのようだ。この角は今ではスパイク状の親指だったことがわかっている。「時代遅れな模型」の一言で片づけるのは簡単だが、メイドメントには、ここにいる恐竜たちの真価がわかっている。公園内の像は、当時の最先端の科学のたまものなのだ。この時代の研究者たちが入手できた化石はごくわずか。それらの骨を現生の動物の骨格と突き合わせて、絶滅した生き物の姿を推測したのである。
今でも研究者たちはそれと同じ方法で化石を調べ、失われた軟組織を推測して、恐竜の姿を復元している。たとえば、太古の動物の顔に頰があったという証拠は化石には残されていない。「それでも今の動物には頰があるので、頰があったと仮定して復元します」と、メイドメントは2体の模型の間で足を止めて説明してくれた。公園の模型もそうした手法で作られている。「当時の知識に基づいて復元された、まったくもって理にかなった模型です」
それ以降、160年以上にわたる恐竜研究で、この公園の模型を作った人々が夢にも思わなかった多くの事柄がわかってきた。そして今また、研究技術の飛躍的な進展で、恐竜についての知識は大きく書き換えられようとしている。