数十万種に広がった成功戦略、双方が利益を得る「相利共生」とは

イチジクとイチジクコバチは、互いに相手がいなければやっていけない

2020.12.29
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南米北部に生息するシロアゴサファイアハチドリ(Hylocharis cyanus)が花の蜜を吸う。(PHOTOGRAPH BY ALEX SABERI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
南米北部に生息するシロアゴサファイアハチドリ(Hylocharis cyanus)が花の蜜を吸う。(PHOTOGRAPH BY ALEX SABERI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 イチゴの実からヒマワリの種に至るまで、私たちがおいしいものを食べられるのは、花粉を媒介する動物、「送粉者」たちのおかげだ。しかし、その背景にある仕組みについてはあまり知られていない。「相利共生」である。

 相利共生とは、異種の個体同士が、双方にとって利益となるように、緊密で持続的な関係をもちながら生活すること。実は、「共生」とだけ言った場合は、必ずしも双方が助け合うとは限らない。片方のみが利益を得て、相手が害を受ける「寄生」や、片方が利益を得るだけの「片利共生」、片方が害を受けるだけの「片害共生」も、広い意味での共生なのだ。

 ハチやチョウ、ハチドリといった送粉者は、花から蜜を吸うときに花粉を体に付ける。その後、花粉を他の植物の元へ運び、繁殖を助けることになる。送粉者はお腹を満たし、植物は生殖できる。この関係が相利共生だ。(参考記事:「特集:花粉の運び屋たち」

 この戦略は大いに成功を収めており、なんと17万種の植物と20万種の動物が関わっている。また、世界の穀物生産量の35%に寄与している。

 中には、互いのニーズにぴったり合うように進化してきた植物と送粉者もいる。例えば、ハチドリの多くは、特定の花の形に合うようなクチバシをもっている。南米に生息するヤリハシハチドリは、体よりも長いクチバシを使って、トケイソウの一種の長い花冠の奥にある蜜を吸う。

 ハチを呼び寄せる花もある。例えば、英語でビーオーキッド(ハチのラン)と呼ばれるオフリス・アピフェラ(Ophrys apifera)の花は、メスのハチの姿に擬態している。(参考記事:「花粉の運び屋を誘惑する花のおもしろ戦略集」

 オスのハチがこの「メス」と交尾しようとやって来ると、ランは大量の花粉をハチの体に付ける。「花粉塊と呼ばれるものをハチにべったりとくっつけるのです」と、米ミシガン大学アナーバー校の博士課程に在籍し、生態学と進化生物学を専攻するケイラ・ヘイル氏は話す。

 重そうな棒状の花粉をまとったハチが、次の花に向けて飛び立っていく様子は、「とても滑稽でかわいいんです」とヘイル氏は言う。(参考記事:「授粉にまつわる植物と動物の驚異の生態」

次ページ:いろいろある相利共生

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