米グーグル社のシニアマネジャーであるアーサー・ディーン氏は、「デジタルノマド」(リモートワークをしながら世界中を旅する生活スタイル)が自分向きだとは思ってもみなかった。オフィスにいないと仕事にならないと考えていたのだ。しかし、パンデミック(世界的な大流行)によって状況が変わった。
4カ月もの間、ワシントンDCの自宅で勤務を続けていて気が変になりそうになったディーン氏は、とにかくそこから逃げ出したかった。米国人を受け入れてくれて、合理的な安全対策が講じられていそうな場所を探し、7月にカリブ海のアルバ島に飛んで1週間を過ごした。
「海に浸かりたかったし、気持ちとしても、新しい世界に浸かりたいと思いました」
現在、ディーン氏はもう一度アルバ島へ行くか、米国人に開かれた別の場所を探して、もっと長期間滞在しようと考えている。まだ片付けなければならないことはあるが、時間も十分ある。米国内のグーグルのオフィスが再開されるのは、早くても2021年7月になるからだ。
これまでデジタルノマド人口の大半を占めてきたのは、フリーランサー、起業家、自営業者などだったが、これは変わっていく可能性がある。従業員を在宅勤務させた6カ月の間に、多くの企業が労働文化に対する考えを改め始めた。かなりの人が、今後もオフィスには行かなくなるかもしれない。
米国人の仕事の3分の1は完全に在宅でできるという研究結果もある。企業のリーダーを対象とするある調査では、82%がパンデミックの終息後も勤務時間の少なくとも一部はリモートワークでできるようにしようと計画していることが明らかになった。
ディーン氏にとって理想は、米国の拠点を維持しながら、毎年数カ月間リモートワークができることだ。これは近い将来現実になるだろう。
「完全にオフィスに戻ることが将来のあり方だとは思えません」とディーン氏は言う。「パンデミックを経て、月曜日から金曜日まで、9時から5時までオフィスにいなくても、生産的に働けることがわかりましたから」
加速するトレンド
リモートワークの機運は、パンデミックの前から高まっていた。企業は実験的に在宅勤務の日を設け、オフサイトで安全にログインできる環境整備に投資していた。そしてこの数カ月の経験からオフィスに行かなくても仕事ができることがわかった今、もう一歩進んで自宅以外でも働けるのではないかと考える人がいる。
デジタルノマドという言葉は、遅くとも『デジタルノマド』という本が出版された1997年には使われ始めていた。同書は、テクノロジーの進化により人はどこででも働けるようになり、祖先のような放浪生活に戻っていくだろうと述べている。その15年後には、インターネットや格安航空会社の普及により、ある種の人びとにとってこの夢は現実のものとなった。2019年のレポートによれば、730万人の米国人が自分はデジタルノマドだと考えているという。
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