2020年11月半ばのある朝、米テキサス州に拠点を置くノース・テキサス・フードバンクのトリシャ・カニングハム会長は早い時間から、ダラス南部の大きなイベント広場にやってきた。4列の車列が、会場入り口からダラス中心部の超高層ビル群のほうまで、数キロにわたって延びている。前の晩からやってきて、車で夜を明かした人たちもいる。サンクスギビング(11月末の感謝祭)をしのぐための食料配布を待っているのだ。
米国最大の食料支援団体である「フィーディング・アメリカ」によれば、20年末までに5000万以上の人々が食料不足に陥るおそれがある。これは、米国人の6人に1人、子どもの4人に1人に当たる。2019年に比べて50パーセント近くの増加だ。米ノースウェスタン大学が6月に行った調査によれば、食料不足は全米で倍増し、子どものいる世帯では3倍に拡大している。
「失業した」が大半に
フィーディング・アメリカのフードバンクや食料庫のネットワークは、10月に5億4800万食分の食料を配布した。これは、パンデミック前の平均の月間配布量の52パーセント増しだ。11月はホリデーシーズンが近づくので、さらに増えるかもしれない。
ダラスのイベント広場のゲートが開くと、ボランティアの人々が車列を誘導し、7キロ近い生鮮食品が入った箱、保存食品、冷凍の七面鳥、パンなどを配布した。いつもなら、ノース・テキサス・フードバンクの祝日向けの無料配布を受けるのは500人ほどだ。ところが、今年はこの日だけで8500人に、220トンを超える食料が配布された。
パンデミック前は、フードバンクにやってくる人々の大半が、職にはついているものの生活のやりくりに多少の援助を必要とする人々だった。それが今では、カニングハム氏に「失業した」と告げる人が大半だというのだ。彼女は、今回の食料配布を受けた人の3分の1が、今まで食料援助を受けたことがない人たちだと考えている。(参考記事:「もはや他人事ではない日本の飢餓」)
「ここに来る人たちは、今まで経験したことのない食料不足に直面しています」と彼女は話す。
パンデミック前、ノース・テキサス・フードバンクが食料を配布している13の郡における食料不足は、2008年の景気後退以降で最も低い水準に抑えられていた。ところが、現在の食料配布数は約3分の1近く増加している。需要に答えるため、毎月、新たに90台の貨物トラックを追加して食料を搬入している。全米各地の都市、市町村、農村部でも同様の状況で、人種の多様性が高い地域では特に著しい。(参考記事:「アメリカの飢餓の実態が浮き彫りに――食料援助の利用者調査2014から」)
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