太古の昔に現在のアフリカ北部の河川に生息していたスピノサウルスは、いったいどのように暮らし、狩りをしていたのか。9500万年以上前のこの大型の肉食恐竜について、科学界では長年にわたり議論が続いている。
ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー、ニザール・イブラヒム氏率いる研究チームは2020年、スピノサウルスは泳いで獲物を追い掛ける「川のモンスター」だったと主張した。スピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)は体長約15メートルのうろこに覆われた獣脚類で、背中に高さ2メートル弱の帆のような突起を持つ。
しかし、1月26日付けでオンラインジャーナル「Palaeontologia Electronica」に発表された論文では、スピノサウルス科の世界的な専門家2人が別のモデルを提示した。
2人は解剖学的な証拠を調査し、その結果として、スピノサウルスは現代のコウノトリやサギのように、水辺で獲物を待ち、水に頭を突っ込んで捕食していたという異なる見解を示している。
スピノサウルスに水陸両方とのつながりがあったことはまず間違いない。歯の化石の化学的特徴から顎の構造まで、スピノサウルスは魚をはじめとする水辺の生き物をよく食べていたという証拠が残されている。同時に、スピノサウルス科は陸生の恐竜、さらには翼竜まで食べていたと示唆する化石記録もある。さらに、生まれる前の恐竜は卵が水没すると溺れてしまうため、少なくとも、産卵は陸上で行っていたことになる。
しかし、新しい論文が発表されたことで、スピノサウルスは水陸それぞれでどれくらい過ごしていたのかや、水中でどのように移動し、狩りをしていたかについて、専門家の意見はまだ分かれていることが明確になった。
論文の著者の一人である米メリーランド大学カレッジパーク校の古生物学者トム・ホルツ氏はナショナル ジオグラフィックのメール取材に対し、スピノサウルスは魚を食べる種も含めた仲間の中で最も水に近い恐竜であるという考えには同意すると述べている。「ただし、半水生の生物と水生生物には明確な境界線があるわけではありません」
「私たちの解釈では、スピノサウルスはホッキョクグマより泳ぎが上手だったかもしれませんが、おそらくアシカほどではありません」
一方のイブラヒム氏はナショナル ジオグラフィックのメール取材に対し、この新しい仮説を歓迎しながら、スピノサウルスが泳ぎながら狩りをするのに魚のような敏しょう性は必ずしも必要なく、そのように解釈しているわけでもないと念を押した。
おすすめ関連書籍
おすすめ関連書籍
先史時代の生物から恐竜、ヒトの祖先まで約300種の生態を網羅する、古生物大百科。700点を超えるビジュアルを収録。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:5,280円(税込)