謎の高速電波バーストを観測、「あるはずがない場所」で発生

「どうなっているんだ?」と天文学者、発生源が複数種の可能性も

2021.05.31
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夜空で最も明るい銀河の1つであるM81星雲。M81星雲の近くにあり、地球から1170万光年の距離にある球状星団からの高速電波バーストが検出されたことは、天文学者たちを驚かせた。(IMAGE BY ASA, ESA AND THE HUBBLE HERITAGE TEAM (STSCI/AURA))
夜空で最も明るい銀河の1つであるM81星雲。M81星雲の近くにあり、地球から1170万光年の距離にある球状星団からの高速電波バーストが検出されたことは、天文学者たちを驚かせた。(IMAGE BY ASA, ESA AND THE HUBBLE HERITAGE TEAM (STSCI/AURA))
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 地球からそう遠くないところで発生した「高速電波バースト」が、天文学者たちを困惑させている。

 高速電波バーストは、数ミリ秒以内に発生する激しい電波フラッシュだ。謎の多い現象ではあるものの、科学者たちは、発生源は「マグネター」と呼ばれる若くて寿命の短い天体ではないかと推測していた。しかし、査読前の論文を投稿するサーバー「arXiv(アーカイブ)」に5月24日付けで発表された論文によると、この高速電波バーストは、渦巻銀河M81の球状星団と呼ばれる古い星々の集まりから繰り返し発生していたという。

「ここは高速電波バーストがあるはずがない場所だ」と、論文の共著者であるカナダ、トロント大学の天文学者ブライアン・ゲンズラー氏はツイートしている。「どうなっているんだ?」

 科学者たちは、この矛盾を説明するのに苦労していて、ほかの多くの天文現象と同様、高速電波バーストを発生させるしくみは1つではないのではないか、という結論に向かっている。

「もしかすると、高速電波バーストはあらゆる種類の電波源と関連した、ごく一般的な現象なのかもしれません」と言うのは、米コーネル大学の天文学者で、高速電波バーストを研究しているシャミ・チャタジー氏だ。なお、チャタジー氏は今回の発見には関与していない。

いったい何が起きているのか?

 このバーストは、2020年1月にカナダのドミニオン電波天文台にある「カナダ水素強度マッピング実験(CHIME、チャイム)」電波望遠鏡で最初に発見され、「FRB 20200120E」と名付けられた。2017年に稼働をはじめたCHIMEは、これまでにも数多くの高速電波バーストを発見していて、当時30未満しか知られていなかった高速電波バーストは、今では1000以上確認されている。(参考記事:「深宇宙から謎の「反復」電波バースト、過去2例目」

 多くの高速電波バーストは一度しかバーストを起こさないが、FRB 20200120Eは繰り返しバーストを起こしており、このような反復型高速電波バーストはこれまでに20あまり知られている。FRB 20200120Eのバーストは、何十億光年も離れたところからやってくる多くのバーストほど明るくないが、昨年の観測で、空のどの領域から来ているかを特定することができた。

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