森が赤や黄色に染まる秋は、米国でも特別な季節だ。概算によると、米国東部では紅葉が年間300億ドル(約3兆4100億円)もの観光収入を生んでいるという。
「この辺りの山々はどこもたいていゴージャスです」と、ノースカロライナ州、ブルーリッジ山脈のふもとに住む写真家ラリー・ディーン氏は語る。「鮮やかな秋の色と相まって、まるで魔法のようです」
しかし、気候変動の影響で秋は暖かくなっている。
米海洋大気局によると、北半球においてこれまでで最も暖かかった10月のトップ8を、2014年から2021年が独占しているという。そして、紅葉で有名な米国北東部は、北米の他の地域よりも早く温暖化が進んでいる。
バーモント州からノースカロライナ州に至るまで、紅葉は予定より遅れている。米ジョージ・メイソン大学の研究者たちが最近行ったカエデの調査によると、19世紀以降、紅葉の開始は1カ月以上遅くなったという。要因は気温だけではなく、雨の多すぎや少なすぎ、異常気象、害虫の発生などが様々に関係している。気候変動がこれらすべての要因に影響を与えるため、紅葉のピーク時期の予測は難しくなっている。
さらに、気候変動による紅葉の遅れは、樹木の成長と休息のサイクルを混乱させている。このことが森林にとってどのような意味を持つのか、科学者たちはまだ把握しきれていない。そうした状況で樹木がどのくらい成長するのか、どのような場所に生息できるのか、以前と同じ速度で炭素を貯蔵し続けることができるのかなど、疑問が残っている。
「秋が始まるタイミングについてだけではなく、紅葉の遅れが森林の崩壊を予兆するものなのかどうか、潜在的に気にかけておくべきでしょう」と、米ジョージ・メイソン大学の生態学者、レベッカ・フォークナー氏は話す。「大げさなことを言って恐怖心を煽りたくはありませんが、こうした変化は、植物が『何かがおかしい』と教えてくれているのだと考えます」
木に休息が必要な理由
人間と同じように、樹木も寒く暗い冬に備えなければならない。春から夏にかけて、木の葉は葉緑素を生成して太陽の光を取り込み、成長と生存に必要なエネルギーを得る。
気温が下がり、日が短くなって成長期が終わると、木は葉緑素の生成をやめ、葉に残った栄養分を吸収して冬に備える。
しかし、春から夏の間も、葉緑素の下にはオレンジや黄色の物質が潜んでいる。木が休眠状態に向かう時、これらの色が見えるようになる。また、アメリカハナノキやサトウカエデなど一部の樹木では、日が短くなり寒くなると赤色の色素アントシアニンが生成される。科学者たちは、このアントシアニンが葉にとっての防寒着のようなもので、寒さで葉が枯れる前に最後の栄養分を葉から吸収するのに役立つと考えている。
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