猛暑と干ばつで、森林の木が次々に枯れている。しかし、世界の国々が力を合わせれば被害を最小限に抑えることができる。
火災の爪痕が残るこの森で、目を引くのは色彩だ。
この森は米国のイエローストーン国立公園の南に位置し、少し前までは灰と焼け焦げたマツだけのモノクロの世界だった。だが2021年夏には、高さ数十センチの若木が辺りをみずみずしい緑色に染め上げ、紫色をしたヤナギランの花と真っ赤なバッファローベリーが黒焦げの倒木に華やぎを添えていた。16年に「ベリー・ファイア」と呼ばれる森林火災がワイオミング州の84平方キロに及ぶ一帯を焼き尽くしてから5年、この森も再生の時期に入ったのだ。
この森の回復状況を調査している生態学者がいる。米ウィスコンシン大学マディソン校のモニカ・ターナー教授だ。うだるように暑い7月、ターナーは一人の大学院生とともに、地面に張った長さ50メートルのテープに沿って進みながら、テープの左右1メートル圏内にあるコントルタマツの若木を1本ずつ数えていた。人里離れたこの森では、シカやオオカミといった動物たちとひょっこり出くわすこともある。
足元には細い若木が所狭しと生えている。二人はほんの数秒で歩ける距離を、小一時間かけて進んだ。その区間を進む間に数えた若木は合計で2286本。これは1ヘクタール当たりに換算すると、17万2000本となる。この目を見張るような回復力がコントルタマツの特徴だと、ターナーは言う。
とはいえ、隣接する区画を前日に調べたときに、気になる状況があった。雑多な花や草とひび割れた地面が目につくばかりで、長さ50メートルの調査区間にコントルタマツの若木はわずか16本、別の区間には9本しか育っていなかったのだ。
これら二つの場所は、以前はほとんど見分けがつかなかった。どちらの場所も南北戦争の頃に火災に遭っている。ただ、一つだけ大きな違いがあった。マツの若木が少ない方の区間は2000年にも火災に見舞われたのだ。この火災後に芽吹いた木は、種子を含んだ球果(松かさ)を十分につける前に、16年の火災に遭ってしまった。そのためこの場所では、マツの森が再び形成されることはなく、今までとは違った風景に移り変ろうとしている。ここでは今後何百年、ひょっとすると何千年も、マツの森がよみがえることはないだろう。
イエローストーンで今起きていることは、世界中で進む現象の一部にすぎない。気候変動に伴い、森林火災は規模も激しさも頻度も増している。オーストラリアでは2019年と20年の森林火災で米国のフロリダ州に匹敵する面積が焼失した。ここで問題なのは、多くの森林が火災後に回復困難な状況に陥っていることだ。これはまた、イエローストーンに限った問題ではないし、火災だけが原因とは限らない。森林の回復を妨げている元凶は気候変動なのだ。
多くの地域で、森林はもはや自力で回復できない状態になりつつある。世界でも指折りの見事な森林でさえ例外ではない。姿を変えつつある森や、再生の望みが完全に断たれた森もある。
気候変動の影響
過去1万年間に地球の森林面積の3分の1が失われたが、そのうちの半分は1900年以降に消失した。私たちは木材として利用するためだけでなく、農地や放牧地の造成、住宅や道路の建設のためにも木を切る。森林伐採は世界的には1980年代をピークに減少している。しかし、地域によって事情は異なる。インドネシアでは、アブラヤシのプランテーションを造成するために大規模な伐採が行われていたが、2016年以降は下火になった。一方、ブラジルのアマゾン川流域では2020年8月から21年7月までに1万3000平方キロの熱帯雨林が失われた。前年度と比べると、消失した面積は22%増えている。世界では1990年以降、米国全土の森林面積を上回る広さの森が伐採されてきた。
加えて、今は化石燃料の燃焼による排出ガスも森林を変えつつある。世界の樹木は知られているだけで7万3000種にのぼると推定されるが、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出により地球温暖化が進むにつれ、一部の樹種は周りの動植物を引き連れて、今より高緯度の地域、あるいは標高の高い場所へ分布域を変えつつある。ハンノキやヤナギ、ヒメカンバは北極圏の広い範囲に進出している。樹木が光合成に使う大気中の二酸化炭素が増えたおかげで、成長が早まり、地球の“緑化”が進んでいる。この現象は今のところ、気候変動の進行を抑制する効果をもたらしている。