ガボン マルミミゾウの森

進化史の初期から続くゾウと植物の依存関係に異変

2022.04.28
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アフリカ中部のガボンはマルミミゾウが最も多く生息する国で、その数は全体の3分の2に当たる約9万5000頭。象牙目当ての密猟と生息地喪失のため、生息数は20世紀中に8割減少した。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
アフリカ中部のガボンはマルミミゾウが最も多く生息する国で、その数は全体の3分の2に当たる約9万5000頭。象牙目当ての密猟と生息地喪失のため、生息数は20世紀中に8割減少した。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年5月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

ガボンの森林では、マルミミゾウの食料となる果実の量が減って、ゾウたちの生存が脅かされている可能性がある。

 ガボン中部の森林地帯に宵闇が迫っていた。

 私たちはロペ国立公園に車を乗り入れるところだった。未舗装道路の両側には、うっそうとした熱帯雨林とサバンナが地平線まで広がっている。深い森の一角に入ろうとしたまさにそのとき、公園内の研究所を管理しているロイク・マカガが車を停止させた。

「ゾウだ!」マカガが低く興奮した声で言って前方を指さし、エンジンを切った。

 数百メートル先で、ゾウの行列が森から姿を現した。月明かりの中で数えてみると6頭いる。1頭は幼く、母親とみられるゾウにそっと押されながら歩いている。ゾウたちはゆったりした歩調で道路を横切った。これだけ間近で目にすると、先祖代々続く由緒ある誰かの屋敷に、勝手に上がり込んでしまったような気分になる。それでも私は、この瞬間を写真に収めようと、携帯電話を取り出した。だが、このちっぽけで人間的な願望を満たそうと電話をいじっているうちに、30メートルも離れてない場所にいた巨大な雄のゾウが、トランペットのような鳴き声を上げて鼻をぐいと持ち上げた。

ロペ国立公園内の草地で食事をするマルミミゾウ。サバンナと熱帯雨林が混在するこのガボン中部の面積約5000平方キロの国立公園は、生物多様性に富んでいる。1946年にガボンで初めて野生生物保護区に指定され、2002年に国立公園となった。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
ロペ国立公園内の草地で食事をするマルミミゾウ。サバンナと熱帯雨林が混在するこのガボン中部の面積約5000平方キロの国立公園は、生物多様性に富んでいる。1946年にガボンで初めて野生生物保護区に指定され、2002年に国立公園となった。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)

「もう行った方がいい!」マカガはそう言ったが早いか、エンジンをかけると、車を発進させた。

 密猟が原因でここ数十年間で激減してきたアフリカ中部のマルミミゾウ(シンリンゾウ)にとって、ガボンの熱帯雨林は最後の生息地の一つだ。サバンナゾウよりも小柄で、まだあまり知られていないこのゾウは、何世代にもわたって通ってきた獣道(けものみち)を歩いては、草や葉や果実を食べる。彼らは穏やかな足取りで、木々の間を音をたてずに移動し、大昔の人間がしていたように、果実が熟す頃合いを見て毎年同じ木々を再訪する。

家族とともに果実を探して熱帯雨林を歩く赤ちゃんゾウ。ここは何世代ものマルミミゾウが踏み分けてきた、数多くの獣道の一つだ。ゾウたちは、どこで何を食べるか、果実が熟しそうな時期はいつかといった知識を受け継いでいく。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
家族とともに果実を探して熱帯雨林を歩く赤ちゃんゾウ。ここは何世代ものマルミミゾウが踏み分けてきた、数多くの獣道の一つだ。ゾウたちは、どこで何を食べるか、果実が熟しそうな時期はいつかといった知識を受け継いでいく。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
ゾウの安息地
ゾウの安息地
かつては何百万頭ものマルミミゾウが、アフリカの熱帯雨林の全域を歩き回っていたと考えられている。しかし現在、生息域は4分の1に縮小した。そのほとんどが、森林地帯が広く伐採率の低いガボンに位置する。ガボンには、全体の6~7割に当たる約9万5000頭のマルミミゾウが生息している。

*「手つかずの森林」とは、少なくとも500平方キロの面積があり、人間の活動による影響が最小限にとどまっている森林。

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