なんとガチョウが国境警備、中国がコロナ対策で

縄張り意識が強く、攻撃的、しかも訓練不要で低コスト

2022.04.26
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英国リーズのゴールデンエーカーパーク自然保護区で撮影されたシナガチョウ。中国原産のサカツラガンを家畜化した種だ。(PHOTOGRAPH BY KRYSTYNA SZULECKA / FLPA / MINDEN PICTURES)
英国リーズのゴールデンエーカーパーク自然保護区で撮影されたシナガチョウ。中国原産のサカツラガンを家畜化した種だ。(PHOTOGRAPH BY KRYSTYNA SZULECKA / FLPA / MINDEN PICTURES)
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 中国とベトナムとの国境で、約500羽のガチョウが「警備」に当たっている。中国へ不法入国しようとする者があれば、激しく鳴いたり、かみ付いたりするのだ。

 2021年10月以降、中国政府は、不法入国による新型コロナウイルスの侵入を阻止するため、「ガチョウ部隊」を広西チワン族自治区崇左市に配備している。体重2キロ超のシナガチョウには特別な訓練が必要ない。いったん縄張りを確立すると、彼らはそれを激しく守るからだ。

 この部隊を補強するのが約400頭の番犬たちだ。番犬たちは(人間の)国境警備隊のパトロールに同行し、鳥たちの警備を見守る。この異種混合チームは、中国国内から新型コロナウイルスを排除することを目的とした「ゼロ・コロナ」政策を維持する上で重要な役割を担っている。中国本土では新型コロナウイルスの感染者が増加しており、人口2500万人の上海市ではさらなる感染拡大を防ぐためにロックダウンが行われている。

 実際にガチョウが活躍したとの報道もある。中国のニュースサイト「The Paper」は1月29日の記事で、2021年12月にガチョウが鳴いたことで、国境を不法に越えてきた2人を捕まえることができたと伝えている。ナショナル ジオグラフィックの確認依頼に対し、崇左市当局からの回答はなかった。

ウイスキーを守ったガチョウ部隊

 感染拡大対策としてガチョウに頼ることは新しいかもしれないが、「ガチョウ部隊」は昔から世界各地で活躍してきた。

 野生のガンを家畜化した鳥であるガチョウは、少なくとも5000年前、ひょっとすると1万6000年前までその歴史を遡ることができる。最近の研究によれば、イヌに次いで古い家畜動物ということになる。(参考記事:「イヌ家畜化の起源は中国、初の全ゲノム比較より」

 紀元前390年にガリア人の秘密侵略からローマ帝国を救ったとされるガチョウの一群を含め、「ガチョウ部隊」の活躍を伝える物語は枚挙にいとまがない。ローマの博物学者、大プリニウスは当時、「ガチョウは周囲を慎重に見張る。イヌの沈黙が何も裏切らなかったであろう時に、ガチョウが議事堂を守ったことを見るべし」と書いている。

 また、英スコットランドのダンバックでは、1959年から2012年まで、「スコッチ・ウォッチ」として知られるガチョウ部隊が14エーカー(約5.7ヘクタール)の倉庫を巡回し、3億ポンド相当のスコッチ・ウイスキーを守っていた。1986年には、米国陸軍が西ドイツのレーダーと対空施設を守るために18羽のガチョウを試しに配備した。このガチョウたちの活躍により、陸軍はさらに900羽のガチョウを現地で徴用した。

 ガチョウはイヌよりも選択的に「警報」を発することができるため、確かにイヌよりも優秀な面があるかもしれないと、国際自然保護連合のガン類専門家グループ議長であるペトル・グラゾフ氏は言う。

「イヌは面白半分に、あるいはイヌ同士で『会話』するために吠えることがあります。しかし、ガチョウが鳴くのは、自分たちの領域に侵入者があった場合だけです」

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