血液や肺にも侵入、マイクロプラスチックはどれほど有害なのか

人間の血液や肺の一番奥からも検出、健康への影響は不明

2022.04.28
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マイクロプラスチックは、一部のピーリングジェルにも使用されている。これが環境へ排出され、巡りめぐって私たちの体内へ取り込まれる可能性がある。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER STEIN, JOKER/ULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES)
マイクロプラスチックは、一部のピーリングジェルにも使用されている。これが環境へ排出され、巡りめぐって私たちの体内へ取り込まれる可能性がある。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER STEIN, JOKER/ULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES)
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 マイクロプラスチックは今や世界中に広がっている。ところが、それが人間の健康にどんな害を与えるのかだけでなく、そもそも害があるのかという基本的な疑問すら、いまだに解決されていない。

 しばらく前から、魚のわたや貝類の体内からマイクロプラスチックが発見され、魚介類を食することの安全性が取りざたされるようになった。魚と違い、丸ごと食べる貝類は特に問題視されている。2017年、ベルギーの研究者が、ベルギー人の好物であるムール貝をよく食べる人は、年間最高で1万1000個のプラスチック粒子を体内に取り込んでいるという研究結果を発表した。(参考記事:「欧州ホタテ、全身にプラスチック粒子残留の可能性」

 環境に排出されたプラスチックは、破砕を繰り返しながら、やがて人間の毛髪よりも細く、空気中に浮遊するほど小さな繊維にまでなることがある。家の中では、衣服やカーペット、ソファなど細かいプラスチックが削られて空気中に漂っている。

 では、プラスチックを含んだ天然のムール貝を食べるのと、典型的な住宅で細かいマイクロプラスチックを吸い込むのとでは、どちらのほうがプラスチックをより多く体内に取り込むのか。英国プリマス大学の研究チームが調べてみたところ、夕食でムール貝から摂取するプラスチックの量よりも、食事の間に吸い込む浮遊プラスチックの量の方が多いことがわかった。(参考記事:「ハチが空気中のマイクロプラスチックを蓄積、初の実証」

米ハワイ州沖で採取された海水サンプルには、生きた海洋生物とプラスチックごみが含まれていた。(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
米ハワイ州沖で採取された海水サンプルには、生きた海洋生物とプラスチックごみが含まれていた。(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 そしてこの春、オランダと英国で、生きている人間の体内の、これまで発見されたことのない場所から細かいプラスチックが発見されたという研究結果が発表された。オランダの研究チームは匿名の献血者の血液から、英国のチームは施術中の患者の肺の奥深くから、それぞれプラスチックを検出した。

 どちらの研究も、それによってどんな健康被害があるのかについては答えを出していないが、今後マイクロプラスチック問題の焦点は、人間の体の奥深く、果ては細胞の中にまで入り込める超微小プラスチックへ移っていくことになりそうだ。(参考記事:「人体にマイクロプラスチック、初の報告」

 オランダの研究に携わったアムステルダム自由大学の環境毒物学名誉教授ディック・フェターク氏は、研究結果に強い懸念を抱いているわけではないとしたものの「血中にプラスチックがあるというのは自然なことではありませんから、やはり問題にした方がいいでしょう」と語った。

いたるところに浸透するマイクロプラスチック

 マイクロプラスチックは、食塩、ビール、果物、野菜、そして飲料水にまで含まれている。大量に海へ流出するプラスチックごみは、分解されて細かくなり、今や想像を絶する量のマイクロプラスチックが世界の海を漂っている。2014年のある査読付き論文によると、その総量は5兆個に上るという。また、九州大学が2021年に実施した最新の調査では、世界の海の上層部に24兆4000億個のマイクロプラスチックが浮遊しているという。これは、500ミリリットルのペットボトルおよそ300億本に相当する量だ。(参考記事:「9割の食塩からマイクロプラスチックを検出」

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