交尾後にメスから自らを射出するオスグモ、カタパルト機構を駆使

逃亡用の糸も用意、メスに食べられないための離れ業を初観察

2022.04.29
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実験中にメスと交尾するマツガエウズグモ(Philoponella prominens)のオス(右)。(PHOTOGRAPH COURTESY OF SHICHANG ZHANG)
実験中にメスと交尾するマツガエウズグモ(Philoponella prominens)のオス(右)。(PHOTOGRAPH COURTESY OF SHICHANG ZHANG)
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 交尾(交接)後、相手のメスに食べられる危険があるオスのクモが、巧妙な脱出方法を進化させた。自分の体を空中に射出する離れ業だ。

 中国、武漢にある湖北大学の生態学者シーチャン・チャン氏が、マツガエウズグモ(Philoponella prominens)でこの現象を観察した。オスグモが性的共食いから逃れるために自身の体を勢いよく飛ばす行動が確認されたのは初めて。チャン氏は大学の研究室でこの行動を観察し、驚いたと振り返る。

「超高速の動きは通常、動物が捕食者から逃れるため、あるいは、獲物を捕らえるために使うもので、交尾の相手に対抗するために使うことはありません」と、チャン氏はメール取材に対し説明する。

 学術誌「Current Biology」に4月25日付けで発表されたチャン氏らの論文によれば、交尾後にメスから飛んで逃げたオスグモはすべて生き残った。高速度カメラで撮影してみると、コンピューターのキーボード上の文字くらい小さなオスが最高で秒速88.2センチ、1秒間に平均175回も回転しながら逃げていることがわかった。

 今回の研究は「この切実な行動が性的な適応であることの確かな証拠を提示しています」と、米オレゴン州ポートランドにあるルイス&クラーク大学のクモ学者グレタ・ビンフォード氏は評価する。「私が知る限り、同じことを証明した研究はありません」

「ディナーデートの餌食」

 ウズグモは全世界に約290種が存在する。マツガエウズグモは中国では一般的な種で、庭や田畑、森林で300匹以上のコロニーを形成している。ペルーを拠点にコガネグモを研究しているビンフォード氏はウズグモの巣を「集合住宅」と表現し、「それぞれのクモが小さな円網を持ち、それらが糸の足場で互いにつながっています」と説明する。(参考記事:「地球屈指の万能素材、クモの糸がすごすぎる」

 ウズグモのメスはほかの多くのクモと同様、交尾後に相手を食べようとする。おそらくオスがほかの獲物より小さく、捕まえやすいのだろう。そのため、交尾を始めるとき、オスはメスに慎重に近づく。メスの生殖器に精包を送り込むには、触肢と呼ばれる付属肢を使用する。そして、交尾が終わると、オスはすぐに逃げ出す。

 チャン氏らは逃亡の様子を間近で観察するため、近くの庭で若いクモを捕まえ、研究室で1匹ずつ飼育した。次に、交尾していないオスを交尾していないメスの巣に入れ、そのやりとりを記録した。空腹の影響を排除するため、メスにはミバエを十分に食べさせておいた。

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