写真家のリン・ジョンソン氏は、撮影を通して人々を隔てる壁を乗り越え、人間とは何かに迫ろうとしている。ナショナル ジオグラフィック誌でも数多くの取材に参加しており、2018年の特集記事では、米国最年少の顔面移植者ケイティ・スタブルフィールドさんを追った。そうした作品が認められ、ジョンソン氏は写真家のマギー・スティーバー氏とともに、ピュリツァー賞特集写真部門の最終選考まで進んだ。(参考記事:「顔を失った女性、顔面移植成功で再出発を誓う」)
ジョンソン氏はこれまですべての撮影において、人と人の純粋なつながりの大切さを巧みに表現してきた。そして、ナショナル ジオグラフィック6月号の特集記事「触れ合いのパワー」のために、ダビニア・ジェームズ=チュワートさんが3カ月の娘ハーパーさんを抱く写真を撮影している。この心温まる一枚について、ジョンソン氏に話を聞いた。
人間らしさを育むもの
6月号の特集記事では、物理的な触れ合いと、それがなぜ人間に大きな影響を与えているのかについて科学的に掘り下げている。触れ合いの大切さが注目され始めたのは2年前。新型コロナによって、世界からそれが失われたときだ。感染対策として握手や抱擁を避け続けたために、そうした触れ合いが私たちの心身の健康にとって不可欠だという思いがより一層強くなった。
ジョンソン氏が今回の取材に引き込まれたのは、写真を撮るという役割だけでなく、人と一緒にいられるからだった。パンデミック下の制限もあり、困難な撮影が続いたが、それも魅力の一つだったとジョンソン氏は語る。
「パズルのようなストーリーが好きなのです。理解して、調査して、謎を解いて、そして何らかの形で現実に表すのです」
ジョンソン氏によると、深みのある写真を撮るには、写真家が時間をかけてカメラの向こう側にいる人に感情を近づけ、信頼関係を築かなければならない。氏はそれを「受けとめる」と呼ぶが、スタジオでそこまで行うのは難しい。
ジョンソン氏は、新型コロナ関連のルールに十分配慮しつつ、物理的な距離を縮めることで、その障壁を破ろうと考えた。撮影中はマスクを着用し、ジェームズ=スチュワートさんにも頻繁に調子を尋ねた。
写真を見た読者が愛する人を、そして、ときには愛していない人をも抱きしめようと思ってくれるよう、ジョンソン氏は願っている。氏は人々がお互いを見限ることを恐れている。人間らしさは、人生が変わるような他の人々の物語からいかに学ぶかにかかっているというのに。
「私たち人間にとって、人とのつながりこそすべてです。それしかありません」