5000匹以上のイヌが、糞とカビにまみれた狭いケージに押し込められていた。生後3週間の子イヌはケージの下の排泄物受けに閉じこめられ、乾燥した糞が体にこびりついていた。互いに争って死んだ個体もいた。そのうちの1匹は「内臓をえぐり出されて」死んでいた。
米国の動物福祉法に違反するこれらの行為は、最近発表された米農務省の報告書に記されたものだ。バージニア州にあるこの動物繁殖施設の所有者は、北米と欧州に20の拠点を持ち、製薬や生物医学の研究用に動物を提供するエンヴィゴ社。動物福祉法を管轄する農務省はしかし、何カ月もの間、同施設で飼育されていたイヌを押収することも、同施設の許可を停止したり取り消したりすることもしなかった。
ナショナル ジオグラフィックが同施設の違反歴と、現在も進行中の動物福祉に関わる問題について農務省にコメントを求めた後、農務省と司法省は5月18日に同施設で145匹のイヌを押収した。動物福祉に取り組むNPO米国ヒューメイン・ソサイエティ―もこの押収に協力した。
5月21日には、バージニアの地方裁判所がこの施設に対し、仲の悪いイヌを分けて飼育することや、すべての子イヌがきれいな水にアクセスできることなどいくつかの条件を満たすまで、「ビーグルの繁殖、販売、またはその他の取引を直ちに停止する」よう命じた。 (参考記事:「ココナツを収穫させる「サルの強制労働」の残酷な実態、タイ」)
70以上の福祉違反を記録
エンヴィゴ社は毒物研究などの医学実験用に、ビーグル、霊長類、ウサギ、げっ歯類を飼育している。バージニア州の施設は認定機関AAALAC(国際実験動物ケア評価認証協会)のメンバーとなっており、3年ごとに現地視察が行われている。
特定の種の動物から利益を得る事業者は、動物福祉法に基づく免許を取得しなければならず、農務省による定期的な検査が義務付けられている。2021年7月以降、農務省はバージニア州の施設に対し4回の検査(直近では2022年3月)を実施、70以上の福祉違反を記録した。例えば、生後6週間の子イヌ78匹に授乳していた母親のビーグル13匹が、42時間にわたって食事を与えられていなかった。検査官の報告によると、エンヴィゴ社は「子イヌの離乳」の一環として、母イヌの乳汁分泌を抑えるために食事を与えなかったという。
これほど多くの違反があるのは「前代未聞です」と、米動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」のダフナ・ナチミノヴィッチ氏は話す。その重大さを考えると「ゾッとします」
イヌたちの押収に先立ってナショナル ジオグラフィックに送られた声明の中で、エンヴィゴ社の広報担当者マーク・ハバード氏は、同施設がここ数カ月で飼育するイヌの数を減らし、2人目の獣医師を雇って2700回以上の検診を行い、スタッフの給与を上げるなどの改善を行ってきたと述べる。
「我々は農務省が以前の検査結果とほぼ同じ内容の報告書を発行したことを承知しています。記載されている全ての問題については、進行中の包括的な改善計画によって対処されています」と言う。 (参考記事:「排泄物に埋もれ、目にかさぶた、研究用チンチラ飼育業者に厳罰」)
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