米国アラバマ州にある暗い石灰洞の奥深くで、北米で最大の洞窟壁画が見つかった。1000年以上も前に、たいまつの明かりを頼りに天井に刻まれた精霊や実物大の生きものたちは、肉眼では確認できないほど不鮮明かつ巨大だが、岩絵としても北米最大級だ。
学術誌「Antiquity」に5月4日付けで発表された論文によると、今回の発見には3Dフォトグラメトリーという技術が使われた。航空写真から地形を明らかにするなど、測量や地形調査の世界で発展したこの技術を使い、研究者たちは米国南東部にある“19番目の無名洞窟(19th Unnamed Cave)”の地下に隠された壁画を探していた。盗掘者や洞窟探検の愛好家に壁画を傷つけられたり破壊されたりしないように、洞窟の場所は明らかにされていない。
論文の筆頭著者で、米国テネシー州ノックスビルにあるテネシー大学の考古学者、ジャン・シメック氏は、以前にも“19番目の無名洞窟”を調査している。1998年に行った最初の調査で、シメック氏と論文の共著者であるアラン・クレスラー氏は、壁画が描かれた天井を、ヨーロッパ人による植民地化以前の北米に広がっていた「先史美術の最南端の例」と説明している。
今回の調査では3Dモデルを使うことで、さらに多くの壁画を発見した。これまで巨大な岩絵はないと考えられてきた場所であり、肉眼では見ることのできないものばかりだ。洞窟の天井は非常に低く、壁画を見るにはうずくまるか横になる必要がある。壁画を描いた古代のクリエーターたちも同じ姿勢をとっていたことだろう。
「天井には何千という彫り跡がありました」と言うのは写真家で共著者のスティーブン・アルバレス氏だ。
そして他の多くの洞窟にも同様の壁画があるはずだと研究者たちは考えている。
「かつてそこにいた人々」への関心
大胆不敵な古代のアーティストたちが描いた壁画は発見されるまで1000年もの間眠っていた。それらの壁画が描かれた状況も、そして発見された状況も過酷だった。
米国南東部の洞窟壁画の第一人者であるシメック氏によると、“19番目の無名洞窟”は全長約5キロの暗く湿った洞窟で、肉眼でも見える壁画が特に集中する通路の高さは60センチほどだ。
洞窟の環境は「時に非常に不快です」とシメック氏は認める。「私が洞窟へ行くのは、好きだからではなく、そこに発見があるからです」