少しだけ気温が高めの蒸し暑い夜でも、寝苦しいものだ。翌朝は頭がぼんやりして、すっきりしない。だれにでも、そんな経験があるだろう。
こうした感覚は不快なだけではない。睡眠不足によって、心疾患のリスクが上がったり、気分の変動が激しくなったり、学習能力が低下したりなど、さまざまな悪影響が出ることが長年の研究で判明している。本人にとっても、社会や経済にとっても、大きな負担となる問題だ。(参考記事:「睡眠不足は立派な「病気」です!」)
このたび、気候変動の影響で夜間の気温が徐々に上昇すると、就寝が遅く、起床が早くなり、貴重な夜の睡眠時間が損なわれていることが新たな研究によって示された。デンマーク、コペンハーゲン大学の研究者らが5月20日付けで学術誌「One Earth」に発表した。
合計741万回分の睡眠を追跡調査したところ、気温があまり高くない地域でも人々の睡眠は減り、睡眠時の気温がわずかに上昇しただけでも順応に苦労していた。気温の上昇に伴って、産業革命前から21世紀末までに、1人あたりの睡眠時間は年間50〜58時間減り、睡眠不足の夜が年間13~15日も増加すると、研究者たちは警告している。
これは、気候変動がいかに人々の日常生活に影響するかを示すとても明確な例だと、専門家たちは考えている。干ばつや洪水のような壊滅的な打撃だけでなく、気候変動は小さな負担を少しずつ私たちに積み重ねているのだ。コペンハーゲン大学の研究者で、この論文の筆頭著者であるケルトン・マイナー氏は、気候変動がもたらす睡眠不足について「将来の話ではありません。もうすでに起きていることです」と話している。
わずかな気温上昇でも
マイナー氏らは、2015〜2017年に世界68カ国で収集された、約5万人分のリストバンド型活動量計のデータを分析した。データからは、人々の就寝時間、起床時間、その間の睡眠状態のほか、正確な位置情報もわかった(データは匿名化されている)。
そして、睡眠データを、その地域の戸外の気温と比較した。ただし、室内の環境やエアコンの使用の有無に関する情報は含まれていない。一人ひとりの継続的な記録を調べたので、ある人の睡眠状況が6月の涼しい夜とその数日後の暑い夜でどう違ったか、あるいは2月の季節外れに暖かい夜ではどう変化したかまで把握できた。
今回のデータがユニークなのは、信頼性が低下しがちな自己報告ではない点だ。また、気候と睡眠との直接的な関係を調査した数少ない過去の研究では、調査対象の人数が少なかったり対象地域が米国内限定だったりしたが、この研究では世界規模のデータを利用した。
さらに注目に値するのは、その結果だ。人々が最も長く眠れたのは、屋外の気温が10℃以下の夜だったという。それ以上になると、睡眠が7時間未満になる割合が高くなった。気温が25℃を超えると睡眠時間の短縮に拍車がかかり、夜間の外気温が30℃を超えると、一晩の睡眠時間は平均で約15分短くなった。
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