サル痘について今わかっていること、感染経路や治療薬、歴史など

世界で患者が増加中、流行の状況や感染者が増えている理由も

2022.05.30
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サル痘ウイルス粒子の電子顕微鏡画像。2003年にサル痘が流行した際にヒトの皮膚から採取された。左側の楕円形のものは成熟したウイルス粒子、右側の三日月形や球形のものは未成熟なウイルス粒子。(CDC/CYNTHIA S. GOLDSMITH/SCIENCE SOURCE)
サル痘ウイルス粒子の電子顕微鏡画像。2003年にサル痘が流行した際にヒトの皮膚から採取された。左側の楕円形のものは成熟したウイルス粒子、右側の三日月形や球形のものは未成熟なウイルス粒子。(CDC/CYNTHIA S. GOLDSMITH/SCIENCE SOURCE)
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 2022年5月7日に英国でサル痘の感染者が確認されて以来、世界各地に感染が広がっており、各保健当局が状況を注視している。世界保健機関(WHO)の5月29日の発表では、5月13〜26日の間に、欧米の少なくとも16カ国およびオーストラリアとイスラエルで、サル痘の確認例が257件、疑い例が約120件報告されている。

 サル痘の自然界での宿主は中央アフリカと西アフリカの動物と考えられており、主に森林地帯で流行しているため、それ以外の場所で人間がサル痘に感染することはまれだった。2018年から2021年までの間に、サル痘の流行地以外で感染者が確認されたのは8例のみで、全員にアフリカへの渡航歴があった。

 5月7日の患者もナイジェリアに旅行していた。だがその後、アフリカへの渡航歴のないサル痘患者が数カ国で見つかった。「サル痘で、このような流行は見たことがありません」と米疾病対策センター(CDC)の疫学者アンドレア・マッカラム氏は言う。「そこが心配なのです」

 サル痘ウイルスには西アフリカ系統とコンゴ盆地系統があり、現在の感染を引き起こしているのは西アフリカ系統のようだ。感染すると、インフルエンザに似た症状の後、顔に発疹が出て、他の部位にも広がる。発疹は、最初は赤い斑点状だが、やがてこれが水疱(すいほう)、膿疱(のうほう)となって、最後はかさぶたになってとれる。大半の患者は数週間以内に自然治癒するが、命を落とす患者も約3%いる。

 コンゴ盆地系統の症状はもっと重篤で、患者の10%近くが死亡する。1979年に根絶された天然痘ウイルスはサル痘と近縁のウイルスだが、致死率ははるかに高く、患者の30%が死亡する。

 WHOの感染症疫学者マリア・バン・ケルクホーブ氏は、5月23日のオンライン公開質問会で、「今回の症例では(サル痘の)感染は、本当に密接な身体接触、つまり皮膚と皮膚との接触で起きています。それは新型コロナとある意味、大きく違います」

「これは封じ込められる状況です」と氏は言う。「感染者に投与する抗ウイルス薬候補も、感染リスクの高い人々、つまり感染者との濃厚接触者に投与するワクチンもあります。ワクチンは全員に必要なものではありません」

 幸い、最近のサル痘の流行では現在のところ死亡者は確認されていない。だが、感染がどこで始まり、なぜ広まっているのかは不明であり、マッカラム氏も、現時点ではまだわからない点が多いと言う。以下では、これまでに明らかになっていることをまとめる。

感染者の推移は?

 5月7日に英国で最初の患者が特定されて以来、サル痘のそれまでの流行地以外の患者数は増加している。

 公衆衛生当局は現在、接触者の追跡や症例間の関連調査を続けている。こうした調査は、無症状または軽症の未診断患者の発見にも役立つだろう。

 現在確認されている症例は、ヨーロッパ、特に英国、スペイン、ポルトガルに多い。感染者の大半が男性で、その多くが同性愛者だと自己申告している。5月23日にAP通信のインタビューに応じたWHOのアドバイザーは、現在の流行が始まった原因について、スペインとベルギーで最近開催された2つの音楽イベントでの男性どうしの性行為を発端とする説が有力だと述べた(編注:日本の国立感染症研究所は5月24日の時点で、国内においてサル痘の報告はないと発表)。

次ページ:シーツや衣服も感染源に、ワクチンや治療薬は

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