この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年7月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
北米先住民の主権を求める運動が、米国とカナダで勢いを増しつつある。父祖伝来の土地と文化を取り戻し、独自の法律を制定し、自らの生き方を貫くために。
第1章 土地を取り戻す
クラオクイアト(カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州)
長さ2メートル、高さ1メートル、幅1メートルほどのレッドシダー(ベイスギ)の角材。その丸みを帯びた頂部を、木彫り職人のゴードン・ディックがチェーンソーで切り落とそうとしていた。すると、もう一人の職人であるジョー・マーティンが、身をかがめて刃の通り道を確認する。
マーティンはカナダのバンクーバー島西岸に住む先住民であるクラオクイアトの出身。オオカミをかたどった低いトーテムポールを作るため、まず角材をおおまかに切っているところだ。そばにはもっと大きいトーテムポールが二つある。どちらも象徴的な像が彫ってある。クマ、太陽、神話に登場するウミヘビ、そしてオオカミ。
マーティンはこの夏、バンクーバー島西岸沖のミアーズ島にある彼の一族の出身地、オピツァト村にトーテムポールを立てるつもりだった。村にはかつて何百本もあったが、カナダでは1884年に収集家や博物館がトーテムポールを持ち去ることを許可する法律ができ、大量に持ち出されてしまった。先住民にとってトーテムポールは、祖先の教えを表したものだが、それ以上の意味もあると、マーティンが教えてくれた。「『私たちはここにいる。ここは私たちの土地だ』と宣言するものです」
ミアーズ島はクラオクイアトの祖先が暮らしていた土地の一部だ。カナダ政府は広さ1000平方キロのこの一帯を公有地、私有地、少数の先住民の集落が混在する場所と見なしているが、クラオクイアトは昔も今も自分たちの土地であると主張し、全域を部族公園に指定している。
この一帯の多くの森は乱伐で荒れ果てている。木材会社が貴重なシダーの古木を片っ端から伐採したため、土壌が流出し、後には荒れ地が残された。
クラオクイアトのネーション(自治政府)で天然資源を統括するサヤ・マソはこう話す。「それは50年前のことです。以後、会社も、ブリティッシュ・コロンビア州政府も、カナダ連邦政府も、森を再生しようとしなかった。だから、私たちがその仕事に取り組んでいるのです」
クラオクイアトは、せき止められた川の流れを復元し、伐採前の生態系を再生させ、ニシンの産卵場を保護している。それに加え、ネーションの基盤づくりにも取り組んできた。独自の教育プログラムを作成し、公園保護官と呼ばれる独自のレンジャーを雇っている。さらに、ネーションの活動を支える寄付金を、消費税のような形で集める仕組みも導入した。事業者を説得して、顧客への請求額の1%を自主的に上乗せしてもらうのだ。