2013年、当時77歳だったマリー・アン・ハン・ユー氏は、米テネシー州メンフィスの自宅を引き払う作業に追われていた。その時、クローゼットからほこりをかぶった謎のスーツケースが見つかった。色あせた古いスーツケースは、何年も放置されていたようだった。
「それは、韓国から持ってきたスーツケースでした」と、ユー氏の娘、ステファニー・ハン氏は振り返る。「開けてみると、ポジフィルムがたくさん入っていました」
そのポジフィルムは、朝鮮戦争休戦後の復興に取り組む韓国の生活を記録した貴重なカラー写真だった。朝鮮戦争では、1950年6月から53年7月までの3年間、激しい戦闘が続いた。一説には、犠牲者が約500万人に達し、その半数は民間人だったという。(参考記事:「朝鮮戦争勃発から70年、米国に残った悪しき前例」)
復興期の様子をカメラに収める
ユー氏が撮影した写真の多くは、市井の人々の生活にレンズが向けられていた。バス乗り場の鮮やかなピンク色の韓服を着た女性や、足を止めてカメラを見つめる稲の大きな束を背負った若者らだ。同時に、激動の時代に起きた政治デモや軍事行動、当時の権力者の姿も間近で撮影している。
現在85歳になるユー氏がこうした写真を撮影できたのは、1956~57年、ソウルに滞在していたからだ。ユー氏は、まだ20歳。当時の李承晩(イ・スンマン)大統領と親しかったユー氏の母親が、政界や社交界のエリートが頻繁に利用するソウルの高級ホテルの広報ディレクターとしての職を得たため、ユー氏もソウルで過ごすことになった。
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