地図上でカナダ、ニューファンドランド・ラブラドール州東岸の北大西洋沖をじっくり見ても、何もない。そこにあるはずの無人島は、Googleマップでも表示できないほど小さな島だ。
しかし、50年近く前、米地質調査所(USGS)と共同開発したNASA初の地球観測衛星が、地上800キロ超の宇宙からこの島を捉えた。この発見により、カナダの領土は70平方キロほど拡大した。ささやかな領土拡大ではあったが、現在ランドサットの名で知られている地球観測プログラムにとっては、心躍る成果の先駆けだった。この小島は1979年、発見者である革命的な地球観測衛星にちなんでランドサット島と命名された。
USGS地球資源観測科学センターの研究員テリー・ソウル氏はランドサットについて、「地図製作の分野をまさに一変させました」と述べている。
NASAといえば、星を見上げるイメージが強いかもしれない。だが、その人工衛星は半世紀にわたり、私たちが暮らす地球を見下ろしてきた。
50年代から60年代にかけての有人宇宙飛行計画、マーキュリー計画とジェミニ計画で宇宙から撮影した地球の画像をヒントに、1972年7月23日、ランドサット1号が打ち上げられた(打ち上げ時の名称は「Earth Resources Technology Satellite(地球資源技術衛星)」)。現在もNASAとUSGSによって運用されているランドサットプログラムは、史上最も長く続いている地球観測事業だ。
「1960年代半ばは宇宙開発競争の真っただ中で、米国民は宇宙のとりこになっていました。その技術を軍事的に利用するだけでなく、カメラを地上に向け、地球で起きていることを見るというのは、実にユニークなアイデアでした」とソウル氏は振り返る。「ただし、その結果までは予想できていませんでした」
1972年以降、9基のランドサット衛星が地球から空に打ち上げられた(6号機は軌道に届かなかった)。現在、3基が極軌道で地球を周回し、幅185キロほどの広大な土地を見下ろしながら、とても詳しく計測を行っている。16日ごとに、同じ衛星が同じ場所を見る。つまり、50年にわたって地球を見つめ、その表情の変化をつぶさに記録してきたということだ。
数十年にわたってランドサットプログラムのリーダーを務めるジェームズ・アイアンズ氏は「素晴らしい発見があるプログラムです」と語る。「ランドサット1号が打ち上げられた当時は、まだ地球全体が地図になっていたわけではなく、データが不足していました」
こうして、地図製作者兼パイロットのエリザベス・フレミング氏がランドサットのデータを使い、歴史に珍しい足跡を残す舞台は整った。
カナダの領土を広げた1つのピクセル
1973年、カナダの沿岸調査で、細部の記述が乏しかった北岸の地図製作を進めるため、ランドサットのデータを使用することになった。フレミング氏は衛星データを調べているとき、地球の表面で跳ね返される光のスペクトルにある明確な特性を見いだした。そして、氷山ではなく島の存在を示す光だと結論づけた。
この岩礁は幅約25メートル、長さ約45メートルで、周囲の海水のように赤外線を吸収するのではなく反射していた。解像するにはあまりに小さかったが、1つのピクセル(画素)の平均反射率を大きく変化させていた。
「その1つのピクセルに、水と陸が混在しています」とソウル氏は説明する。「そのため、周囲とはっきりコントラストを成しています」
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